著:剣世 炸
epilogue
けやき商を卒業して2年が経過した4月。
俺は銀杏大学の3年へと無事に進級していた。若林先生から『大学を卒業したら、私の跡を継いで欲しい』という冗談とも思える申し出を叶えるべく、俺は教職課程に就いた。けやき商で商業系の検定の1級をほぼ全て取得していたお陰で、大学での講義やテストもなんなくこなし、2年から履修しているゼミでは教育学を教えている高井教授の下、教育学についての知識を学ぶと共に教養を深めている。
真琴は、俺の卒業後部長としてパソコン部をまとめ上げ、けやき商を連続優勝へと導くと共に、自身も個人優勝を果たした。その功績が認められ、卒業後は大手鉄道会社に就職し、現在は車掌を務めながら運転士となるべく勉強をしているらしい。
亜美は、彼氏である俺の友だちと一緒に、俺とは別の大学に進学した。だが、風の便りに聞いたところによれば、俺の友だちとはその後別れ、大学も家庭の都合で中退したらしい。
そして…
「せんぱ〜い!!」
けやき商と見間違えるほどの桜並木を擁する銀杏大学構内の道を歩いていると、後ろから馴染みの声が聞こえてきた。
後ろ髪は可愛いピンク色のリボンを使ってポニーテールでまとめていて、大きな目につけた『つけまつげ』が、とても映えて見える。
新調したであろうスーツを身に纏った姿は、制服姿から大人への階段を一歩上がったようにも感じた。
「…今日は遅刻せずに大学まで来れたみたいだな!」
「確かにこの前練習で来た時は遅刻しちゃいましたけど、あれは電車が遅れたせいで…」
「冗談だよ!冗談!」
「もぅ!先輩の意地悪…でも、そんな先輩も大スキです!!」
公衆の面前であるにも関わらず、声の主は俺に抱きついてくる。
「こらこら!ここは大学だぞ!」
「…駄目なんですか?先輩…」
「…駄目じゃないさ。でも、ここじゃあれだから、な…」
「はいっ!」
「さぁ、入学式まで時間がない。3年前と同じように、今度は宣誓の言葉、期待してるからな!」
「ふぇ〜。折角先輩とお話して緊張がほぐれたと思ったのに…ていうか、練習に何回も付き合っていて、内容は分かっているでしょ?」
「…兎に角、会場まで急ごう!」
俺は声の主の手を取ると、会場である体育館に向かって走り出した。
「…先輩、私、とっても幸せです」
「…俺もだよ」
その時、突如俺たちを春の暖かな風が包み込む。
そして、風に煽られ舞い上がった桜吹雪が、2人の学生生活の前途を祝福するかのように舞っていた…
fin