著:剣世 炸
銀杏大学編
第1章 入学・進級と運転免許
第2話「友人の誘い」
大学での生活リズムもだいぶ掴めてきた4月中旬。
俺はサークル仲間と共に、大学生協も入っているラウンジにいた。
この日、普段通学定期で登校しているサークル仲間が、大学近くのパーキングにマイカーを停め登校していたため、ラウンジでのたべりの話題は、専ら運転免許や車のことで持ち切りだった。
「おい、煉!お前は高校時代に運転免許をとってきたのか?」
「いや…高校時代は卒業の直前まで部活やら検定やらで忙しかったから、車の免許はとりに行かなかったんだ…」
「(ていうか、美琴と一緒に居たかったから、部活に足しげく通っただけなんだけどな…)」
「そうなのか。俺は高校時代に免許とってきたら使えないけど、うちの大学には『運転免許取得支援制度』ってのがあって、申請すれば合宿免許で大学の講義を休んでも、出席扱いになるらしいぞ!」
「…そう言えば、そんな制度があるって、オープンキャンパスで言ってたっけ…」
「なぁ煉。もし良ければ、俺と一緒に合宿免許に行かないか?」
「えっ!?」
サークル仲間からの突然の提案に驚く俺。
「いや、運転免許って、就職する際には絶対に必要になるじゃん!?大学の講義も、先に進めば進むほど難しくなるだろうし…いくら支援制度で大学の講義を休めるからって、講義を受けたことにはならない訳で…」
「だったら、内容があまり進まない今のうちに支援制度を活用して、運転免許をとってしまおう…」
「そういうこと。どうだ、煉!?」
「高校時代にとってきた俺から言わせてもらうと、免許は早くとりに行くに越したことはないぞ。就職に使えるってのも大きいけど、何より風を切ったドライブは最高だからな!!」
「(うーん…)」
金銭的には全く問題はない。それは祖父母が、むしろ『早く免許をとれ!!援助はするから』と言ってくれているからだ。
問題になるとすれば…
「どうした?煉…何か問題でもあるのか?もしかして、金か?」
「金だったら、免許ローンってのもあるらしいぞ。俺はそれを使って行こうと思っているし…」
「いや。金は祖父母が出してくれるって前々から言ってるから、問題はないんだ」
「じゃあ、何が問題なんだよ!?」
「もしかして…これか!?」
高校時代に免許をとってきたというサークル仲間が、小指を立てて俺に見せる。
「???」
「おい…お前、いつの時代のハンドサインだよ!!」
「煉、分からないか?」
「…さっぱし分からん…」
「小指を立てて『コレ』っていうのは『恋人』のことを指すんだ」
「…なぜ!?」
「由来は諸説あるようだけど、江戸時代の吉原とかの遊女が、年季明けに好みの客にした『年季が明けたら結婚して下さい。その証として、私の小指を差し上げます』という風習から、小指を女性や恋人のことを指すハンドサインとして使われるようになったらしい」
「そう言えば、30年くらい前に何かのCMで、小指を立てて『私はコレで会社を辞めました』ってのが流れて、その当時の流行語大賞にまでなったそうだぞ」
「お前、随分昔のこと、知ってるんだな…本当は、年齢サバ読んでここにいるだろ!?」
「去年の12月に流行語大賞を振り返るって番組で流れてたのを思い出しただけだ!俺の顔、そんなに老けてないだろ?」
「まぁ、言われてみれば確かに…って、話が随分逸れちゃったじゃないか!?」
「煉が『コレ』の意味を知らないからじゃないか!?」
「それもそうだけど…兎に角、俺の『恋人』が苦悩の原因だと言いたいわけか?」
“コクコク”
俺の言葉に頷く仲間たち。
「煉の恋人って、高校3年の秋から付き合ってるって、今高校2年の娘だろ?」
「大学生が高校生と恋愛、か…煉、気を付けろよ!?」
「何を気を付けるんだ?」
両手をグーにし、手首を合わせて何かを伝えようとする友人。
「はいはい!俺は警察沙汰になるようなことは一切しないぞ!!」
「なら良いんだけど…煉はこう見えて、意外に…」
「意外に…何なんだよ!?」
「なんでもねぇ!!」
「こいつ!!」
俺の軽い叩きをスッとかわし逃げる友人を追いかける俺。
「(運転免許、か…美琴と一緒にドライブ出来たら、きっと楽しそうだな…)」
「(…美琴も『先輩といつかドライブしたいですっ!!』って言っていたことだし…本気で合宿免許行くこと、考えてみるか…)」
“ポカポカ”
逃げる友人を追い詰め、そんなことを考えながら友人の頭を軽く叩く俺。
「煉、分かった。俺の負けだ!降参降参!!」
降参を宣言する友人の声に、俺は手を止め言った。
「俺、お前と一緒に、合宿免許取りに行くよ!」
第3話 に続く