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剣世炸 novel site 〜秋風に誘われて〜

秋風に誘われて

著:剣世 炸

銀杏大学編

第1章 入学・進級と運転免許

第4話「合宿免許」

「煉。今日の技能教習、どうだった?」

「えっと…まぁまぁ、だったかな…」

 ここは、都内から新幹線で約1時間半の場所にあるTOMEI(とうめい)ドライビングスクールの指定宿舎。

 銀杏大学のラウンジで唐突に決めた合宿免許での運転免許取得だったが、思い立ったが吉日の格言通り、俺と友人はその日のうちに大学に申請手続きをし、インターネットと電話を駆使して合宿免許の申し込みを行った。

 俺と友人の相部屋で、教習料・宿泊代・食事代等込々で20万円を切る格安プランで教習ができることとなり、俺の運転免許のために30万円を用意していた祖父は、浮いた分を俺の預金口座に入れてくれた。

「10万円は好きに使うといい。煉がちゃんと卒業できれば、ゴールデンウィーク前には免許を持っていることだろう。そうしたら、あの可愛い彼女と、浮いた金で遊びに行くがいい」

 俺は、実家から少し離れた場所に暮らしている祖父母には、美琴を会わせていた。

 俺が大学に通えるのも、祖父が初年度の学費を全て支払ってくれたお陰だったし、家族の中で俺の進学を応援してくれたのも、他でもない祖父母だった。

 だから、親孝行ならぬ祖父母孝行のためにも、高3の秋に美琴と恋人として付き合いだしてからしばらくして、俺は美琴を祖父母に会わせた。

 祖父母は美琴を歓迎してくれたばかりか、両親に美琴のことを俺が会わせようと思うまで黙っててくれることを約束してくれた。

 そんなこんなで、合宿免許によって浮いた10万円は、運転免許取得のご褒美として結局俺がもらい受ける形になった。

「…まぁまぁって、ちゃんと予定通り進んでるじゃないか!!」

「まぁな。お前は…あぁ、技能教習1つダブったんだな…」

「…あのおっかない教官に当たっちゃって…」

「…でもあの教官、しゃべり方が少し怖いだけで、俺が技能教習受けた時は、優しく教えてくれたけどなぁ…」

「煉は見た目が真面目そうだから、優しくしてくれたんじゃねぇ?」

「…俺は中身も真面目だぞ!!」

「真面目な大学生に、高校生の可愛い彼女がいるっていうのは、どういう料簡かねぇ…」

「真面目なのと、彼女が高校生なのは関係ないだろ!?」

「って、煉。その彼女には、この合宿免許のこと、伝えて来たんだろうな?」

「いや、それが、その…」

「まさか?伝えてないのか!?」

「まぁ、な。ある日突然、颯爽と車に乗った彼氏がお出迎えって、カッコいいと思わないか?」

「あぁ、そういうことか。彼女には黙っておいて、サプライズしたい、と…」

「そういうこと」

 今回の合宿免許のことは、美琴に一切話していなかった。

 トントン拍子とはまさにこのことを言うのだと思う位、TOMEIへの入校の段取りは滞りなく進み、大学で手続きをしてから2日後には、TOMEIが指定する宿舎に俺たち2人はいた。

 コンビニでのバイトも、オーナーに事情を説明して合宿免許に行っている2週間は休ませてもらえることとなり、俺は何の気兼ねなくTOMEIの門を叩いたかに見えたのだが…

“♪君を想い始めて 一体どのくらいの〜”

 俺のスマホから、あの日美琴に捧げた歌が聞こえてくる。

「…噂をすれば『愛しのエリー』なんじゃないのか?」

「…あいつみたいな、一昔前の例えを用いるなよ。今風に言えば『愛しきナターシャ』だろ!?」

「煉…いつからアイドル好きになったんだ?」

“♪今じゃ他愛もない仕草の一つですら〜”

「…とにかく、電話に出てくる……言っとくが、俺はアイドル好きじゃないからな!!」

「わかったわかった!!早く出ないと切れちまうぞ!!」

 俺は立ち上がると、居間から立ち去り美琴からの電話に出た。


***

 昨日の6時間目終了後にかけた先輩への電話は結局繋がらず、22時過ぎにSNSでメッセージのやり取りができただけだった。

 翌日、今度こそはと先輩の講義のない時間を見計らって電話をかけてみるものの、これも見事に空振りに終わり、私は部活の時間を迎えていた。

「…はぁぁぁぁぁ…」

「…どうしたの?美琴ちゃん。…もしかして、先輩と電話が繋がらなかったりして?」

「うん…そのもしかして、だよ…」

「何か心当たりは?」

「いや…何も…今まで、こんなこと全くなかったのに…もしかして、先輩、私のこと嫌いになっちゃったのかなぁ…」

「…!!ちょっと美琴ちゃん!!そんなに涙を貯めて!答えを出すの早過ぎだよ!!」

「…ほんとに?」

「連絡できない訳じゃないんでしょ?」

「…SNSのメッセージのやり取りはできてる、よ…」

「ならいいじゃない!!あの先輩が、美琴ちゃんのことを嫌いになったなら、恐らく徹底的に連絡という連絡を遮断すると思うよ」

「嫌いになったんじゃないなら、何で電話に出ないのかなぁ…」

「きっと先輩も忙しいんだよ。大学でもサークルに入ってる訳だし…私たち高校生には分からない、大学生の忙しさもあるはずだよ!!」

「…そうかなぁ…」

「…そうだよ!!とにかく、SNSで連絡できてるなら、そのやりとりの中でそれとなく聞いてみるといいんじゃない?」

「…そうだね。そうしてみる…」

「それじゃ、練習問題356−12を用意して下さい!!」

「ほらっ!計測が始まるよ、美琴ちゃん!!」

「!!」

 私は紗代の忠告で我に返ると、姿勢を正してパソコンに向かい、気合を入れ直して部活動へと意識を集中させていった。


第5話に続く