著:剣世 炸
銀杏大学編
第2章 旅行
第1話「提案」
「煉!どうやら運転免許、無事に取れたみたいだな!!」
試験場で免許を取得したその足で美琴を迎えに行った翌週明けの月曜日、俺は銀杏大学へと足を運んでいた。
今年のゴールデンウィークはカレンダーの巡りが悪く、今日明日と平日で、明後日の水曜日からようやく5連休が始まるといった感じだ。
「ああ。何とか、な」
「こんなこと言ってるけど、煉は俺よりも早く卒業を決めたんだぜ!」
「そうなのか!」
「いや、恐らく技能教習も学科教習も、教官の巡りが良かっただけで…」
「まぁ、いずれにしても、これでお前たちとの長距離ドライブも計画できるようになった、という訳だ!」
「そうだな!!」
「そう言えば、彼女には免許を取ったこと、報告したのか?」
「おい!それを聞くのは野暮ってもんだぞ!サプライズをキメたに決まってるじゃないか♪」
「それで、キメられたのか?」
「まぁ、な」
自宅にある車でけやき商に美琴を迎えに行ったあの時…
〜 〜 〜
「(まぁ、そうだけど…嬉しいか?)」
「(はいっ。とっても!!)」
「(そうか!!)」
“ギュッ”
「(先輩っ。これからいっぱいドライブしましょうね♪)」
「(そうだな♪)」
〜 〜 〜
美琴は俺の仕掛けたサプライズを純粋に喜んでくれた。
いや…もしかしたら、勘のいい美琴のことだ。俺が合宿免許に行くという事実を隠すため、大学行事に参加しているという嘘をついていることも分かった上で、美琴のためにサプライズを仕掛けたいという俺の想いを汲み取り、俺の気持ちそのものに対して喜んでくれたのかも知れない。
「それは良かったな!」
「…で、次はどうするんだ?」
「次…って!?」
「決まってるだろ!折角取った運転免許だ。有効活用しない手はあるまい!」
「それって…」
「そうさ!車を使った『旅行』だよ!!」
確かに、合宿免許の費用を出してくれた祖父から預かった30万円のうち、自動車学校に合宿免許代として支払ったのは約20万円。つまり、俺の手元には約10万円が残された形となり、祖父は残金を『彼女との旅行にでも使え』と言ってくれている。
「『旅行』か…美琴に提案してみるか!!」
「それがいいぞ!」
“キーンコーンカーンコーン”
「おっ、予鈴だな…」
「連休中だってのに、講義かったりぃなぁ…」
「仕方ないさ。今日の講義は必修科目な上に、マメに出席もとる教授だから…」
「そうだな。よし!気合入れていくか!!」
「(…今日の帰り、ちょうど駅のカフェで美琴と会うことになってるな…善は急げだ。早速今日話してみるか!)」
俺は、美琴の喜ぶ姿を頭に思い浮かべながら、友人たちと講堂へと向かうのだった。
***
「ただいまぁ♪」
「お帰り美琴!」
「お姉!もう帰ってたんだ…パパとママは?」
「今日は『デート』なんだって!!」
「そうかぁ、いいなぁ…」
「『いいなぁ』って、あなたにも先輩がいるじゃないの!!」
先輩がサプライズをしてくれた翌週の月曜日、私は先輩との駅カフェデートを満喫して帰宅していた。
「まぁ、そうなんだけどさ♪」
「…美琴、今日はいつも以上に機嫌が良いみたいだけど、何か良いことでもあったの?」
「うん、それがね…」
〜 〜 〜
「(美琴、今度車で遠くまで行ってみないか?)」
「(遠くって、どの辺りまで行くんですか?)」
「(まず海にぶち当たるまで車で南下して、ぶつかったら西に向かっていく。途中にあの有名な小田切城があるから、それを見学して、そこからさらに南下して、四島から熱沼を通り過ぎていって、伊東半島の南端にある『恋人岬』を目指したいと思うんだけど…)」
「(それって、もしかして『お泊り』だったりして…)」
「(ああ。俺はそのつもり何だけど…ダメ…かな…)」
〜 〜 〜
「って言われちゃったの♪」
駅カフェデートで、私は先輩から明後日から始まる5連休での旅行を提案された。
先輩が運転免許を取ったことで、ドライブデートができるようなったことだけでも嬉しい限りなのに、今度の連休に先輩と『お泊り』でデートができるなんて…
考えただけでも、私は天国へと昇る想いだった。
「そうか…ちなみに、パパとママにはどう言うつもりなの?」
「えっ!?」
「だって、あなたと先輩の関係って、パパとママにはまだ秘密なんでしょ?親公認の仲ならまだしも、あなたが先輩とお泊りに行くことを正直に話して、パパとママが許してくれるとは思えないんだけど…」
「あっ!!!!そうか…」
「そうか…って…そのこと、考えていなかったのね…」
「…うん…『先輩とお泊りデートができる』ってことで浮かれちゃって、すっかり失念してた…」
「で、先輩には何て?」
「『もちろん、喜んで行きますっ!!』って言ったけど、まだ具体的に何時からとかは決めてないんだ…」
「そうか…それじゃ、先輩も美琴との長距離ドライブを楽しみにしてるわよね…」
「ねぇお姉!パパとママに内緒で、先輩とお泊りに行く方法ってないかなぁ…」
「………1つだけ、あるわよ…」
「えっ!なになに!!!?」
「……旅行には、私と三枝さんと行くことにするの!」
「えっ!?」
お姉からの突拍子もない提案に、私の思考回路は完全停止したのだった…
第2話 に続く