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剣世炸 novel site 〜秋風に誘われて〜

秋風に誘われて

著:剣世 炸

銀杏大学編

第2章 旅行

第2話「説得」

「沢継君。沢継煉君…」

「あっ、はい!ここにいます!!」

「お待たせしました………銀杏大学伊東保養所のホテル熱沼、1泊2日、男1人、女3人の利用で間違いないかしら?」

「はい。間違いありません」

「それじゃ、ここにサインと…保養所の利用料一人五千円で、4人の利用だから合計二万円頂くわね」

「はい」

 プリントアウトされた保養所利用申込書にサインをした俺は、言われるがままに二万円を大学事務のお姉さんに支払う。

「確かに頂くわね。当たり前だけど、部屋は男女別。キャンセルしても、宿泊日が明後日だから、今もらった宿泊代は全額キャンセル料として大学側が徴収することになるわ」

「分かりました」

「それじゃ、これが利用する際のチケットと主な注意事項が書かれた書類よ。当日までに、よく読んでおいてね」

「ありがとうございます」

 ホテルの宿泊チケット4枚と、いわゆる「トリセツ」をもらった俺はその場で一礼すると、大学事務を後にする。

「遅かったな、煉」

「無事にチケットをゲットできたみたいだな」

「ああ、待たせたな…」

 大学事務の外で待っていたサークル仲間2人と合流した俺たちは、そのまま校門へと向かう。

「それにしても、お前は免許を取りに行く時もトントン拍子に事を運んでいたけど、今回の旅行も随分とトントン拍子に事が運んだみたいだな…」

「彼女の両親には、まだ挨拶に行っていないんだろう?どうやって、宿泊を伴う旅行を許してもらったんだ?」

「実は、俺の後輩に当たる彼女の姉に協力してもらって、旅行にはその姉と彼女の友達の3人で行くということにしたらしい…」

「…それで、よく彼女の両親が許したもんだな…」

「旅行先に選んだ伊東半島が、彼女が小さい頃に家族旅行でよく訪れた場所で、なおかつ都内からさほど遠い場所にある訳ではないから、許可が出たみたいだ…」

「なるほどな…煉、いろいろな意味で運が良かったみたいだな…」

「そうだな」

「大学の保養所のことを教えてやった俺にも、感謝しろよ!」

「ああ、感謝してるさ!」

 旅行の話をした当日、美琴は姉の真琴に相談し、両親を説得する妙案として、美琴・真琴・紗代の3人で馴染みの伊東半島へと旅行をする計画を即席で立てた。

 未成年である美琴が両親の許可なく宿泊を伴う旅行をすることが難しいことを失念していた俺は、真琴が立てたプランにのることにし、両親には俺の存在を伏せた状態で宿泊の許可を取ったのだった。

 そして、伊東半島の複数のホテルに予約の空きがあることを確認した状態で、サークル仲間から大学の保養所のことを聞いた俺はダメ元で大学事務を訪れ、予約の直前キャンセルが出ている保養所を確認した。

 すると、旅行先の保養所にたまたまキャンセルが出ていることを発見し、旅行先での寝床と朝夕の食事を確保したという訳だ。

「…宿泊先が決まったんだから、彼女とお姉さんに連絡しなくていいのか?」

「そうだった…」

“パシャリ”

 俺は大学事務からもらった宿泊チケットをスマホで撮影すると、SNSを使って美琴宛に送信した…


***


「……旅行には、私と三枝さんと行くことにするの!」

「えっ!?」

 お姉からの突拍子もない提案に、私の思考回路は完全停止した。

「ちょっと!美琴!!…大丈夫?」

「………いやいやいやいや………先輩との旅行に、お姉がついて来るって………それはなしでしょ!?」

「…それじゃ、どうやってパパとママを説得するつもり?」

「それは…」

「行き先は、パパとママが馴染みの場所の方が良いわね…車で行ける範囲ってのも考慮に入れると…伊東半島の熱沼辺りが良いわね」

「伊東半島には、よく家族旅行で行ったもんねぇ…懐かしいなぁ♪」

「泊まる場所は『直前キャンセルを狙っているからまだ決まっていない』ってことにして…三枝さんの予定はどうかしら?」

「今確認してみるね…」

“ピピピピピ…ポチッ”

“………シャララン”

「紗代ったら…返信早!!」

「…で、何だって?」

「…大丈夫みたい。先輩との旅行がなかったら、私の家に泊まりに来る予定だったし…」

「そう。それじゃ、今度は先輩に連絡ね」

「分かった…今確認してみる…」

“ピピピピピ…ポチッ”

“………シャララン”

「先輩も…返信早!!」

「…それで、先輩は何て?」

「…お姉のプランにのるって。明日、熱沼にある大学の保養所のキャンセル待ちを確認してみるってさ」

「大学の保養所?」

「大学が契約している普通のホテルで、通常の宿泊料金の半額以下で宿泊できるらしいよ」

「!!そう言えば、宿泊費とか交通費とかを先輩に聞いておいてね。連休に入る前に、銀行にお金をおろしにいかないと…」

「それは、全部先輩が出してくれるみたい。免許を取るのにかかった費用が予定よりも安かったらしく、浮いたお金は私との旅行に使っていいって、免許費用を出してくれた先輩のおじいちゃんが言ってるんだって…」

「それって…美琴、あなた、先輩のおじい様に会ったってこと?いつの間に?」

「先輩が免許を取りにいく前に、ちょっとね…言ってなかったっけ?」

「そんな話、聞いてないわよ…」

「そうだった?」

「まぁいいわ…この連休は、私も特に用事は入ってないから、出発する日が決まったらすぐに教えてね」

「分かった!」

 この後、デートから帰宅した上機嫌の両親に私とお姉で説得を試みた結果、あっけなく両親からの許可をもらうことができ、連休2日目を出発日とした伊東半島への1泊2日の旅行が決まったのでした。


 第3話に続く