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剣世炸 novel site 〜秋風に誘われて〜

秋風に誘われて

著:剣世 炸

銀杏大学編

第2章 旅行

第3話「出発」

 連休2日目。美琴(と真琴・紗代)との初旅行初日を迎えた。

「ご馳走様でした」

「おや。もういいのかい?」

「あんまりたくさん食べて、運転中眠くなるのも嫌だから…」

 両親に美琴のことを紹介できていない状況での美琴との旅行ということもあり、この連休中、俺は実家から車で数十分の場所にある祖父母の家にいるということにし、連休の初日は祖父母の家に泊まった。

 別に両親と仲違いしているという訳ではないのだが、美琴とのことはただ何となく切り出せずにいている。

 一方祖父母には、大学の入学資金や運転免許の取得資金を用立ててもらったり、俺の人生設計を応援してくれているということもあり、美琴と付き合いだして暫くして、すぐに会ってもらっていた。

「あの美人な彼女さんとは、どこで待ち合わせしているんだい?」

「向こうは町口駅経由で小田切駅まで行って、東海道線使って熱沼まで行く予定らしく、俺は片蔵駅で美琴達を拾う予定」

「美琴たち?」

「ああ。真琴の発案で、俺と美琴だけじゃなくて、真琴と美琴の友達の紗代も一緒に行くことになったんだよ…」

「そうか…向こうさんも、煉のことをまだご両親に話せていないんだったっけねぇ…」

「そうなんだ。別に話せていないことに、深い意味はないらしいけど…」

「いつの時代も、実の両親に惚れた人を紹介するってのは、ハードルが高いのかねぇ…」

「いつの話をしているんですか?おじいさんったら…」

「煉よ…わしの父と母、お前の曾祖父母にあたる人に、付き合い始めたばあさんをなかなか紹介できなかったんだよ。それにお前の父も、お前の母をわしらの元になかなか連れて来なかった。血は争えないって訳さ…」

「って、それじゃ…じいちゃんとばあちゃんって、恋愛結婚だったのか…」

「あぁ。わしらの時代には珍しく、な」

「もぅ、おじいさんったら…」

「まぁそういう訳だから、わしもばあさんもお前のことを応援できるって訳さ。彼女さんとのデート、楽しんでおいで」

「但し!!むこうのお嬢さんに間違ったことはしないように!!」

「分かっているよ、ばあちゃん…」

“スッ”

 そう言うと同時に、祖母が紙袋を差し出す。

「車の中で食べな。恐らく足りるはずだから…」

 中身を確認すると、銀紙に包まれた小振りのおにぎりが8個と、たくあんや玉子焼きといったおかずが詰められたタッパーが数個入っている。

「ばあちゃん、ありがとう!!」

「気を付けて行くんだよ!」

 こうして俺は、その日のランチが入った紙袋と旅行カバンを携え、祖父母の家を後にした。


***


「…本当に車で送らなくていいの?」

「電車で行くから大丈夫!!それに、車窓の景色をのんびり眺めながら行くのも、旅行の醍醐味って奴でしょ?」

 ここは、九王子駅の改札前。

 私とお姉は、両親の車で駅まで送られ、改札前で紗代が到着するのを待っていた。

 目的地の熱沼まで先輩の運転する車で行く予定なのだが、先輩との関係を両親に話せていない私は、お姉の提案で旅行には私・お姉・紗代の3人で電車に乗って現地まで行くこととし、両親に宿泊旅行の許可をもらった。九王子駅を出発した私たちは、次の片蔵駅で先輩に拾ってもらうことになっている。

 実際、宿泊するホテルは同じであるものの、部屋割的には私たち女性陣3人で1部屋と、先輩で1部屋となっていて、万が一両親にバレたとしても、私たち3人の旅行に先輩がたまたま居合わせたといった説明もできる状況だ。

「紗代〜こっちこっち!!」

「美琴ちゃん!それに部長!お待たせしました。バスが少し遅れちゃって…」

「…さて、これで揃ったわね」

「紗代ちゃん。言ってくれればお家まで迎えに行ったのに…」

「いえ、そこまでお気遣い頂かなくて大丈夫です。ありがとうございます」

「それじゃ、旅行に行く3人の娘たちに、私からこれをあげよう」

 そういうと、父がおもむろに胸ポケットから3枚のポチ袋を取り出し、私たちに手渡す。

「えっ…パパ!いいの?」

「私にまでいいんですか?」

「ああ!旅行は何かと物入りだ。小遣いで足りなくなったら、遠慮なく使いなさい!!」

「ありがとうございます!」

「パパ!ありがとう!!」

「父さん。大事に使わせてもらうわね♪」

「さぁ、電車の出発する時間だ。急いでホームに行きなさい!」

「気を付けて行ってくるのよ!」

「は〜い」

「真琴。ホテルについたら電話頂戴ね。紗代ちゃん、美琴のこと、よろしくね!!」

「母さん、分かった」

「行ってきます!」

“ピピッ”

“ピピッ”

“ピピッ”

 ICカードをタッチし、初乗り料金が差っ引かれる。

 改札を抜け振り替えると、父と母がこちらに向かって手を振っていた。

 それに応えるように、私たち3人も手を振り返す。

「…何だか、父さんと母さんをダマしてるみたいで、気が引けるわ…」

「そんなこと言っても仕方ないよ、お姉…」

「元はと言えば、あなたが話せていないのが原因なんじゃないの!」

「まぁまぁ部長。先輩が待ってますから、とりあえず片蔵駅まで行きましょう!」

 こうして私たち3人は、先輩との待ち合わせ時間5分前に片蔵駅に到着し、駅のロータリーで無事に先輩に拾われた。

 そして、熱沼を目指した長距離ドライブが始まったのだった。


 第4話に続く