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剣世炸 novel site 〜秋風に誘われて〜

秋風に誘われて

著:剣世 炸

銀杏大学編

第2章 旅行

第4話「小田切城」

 片蔵駅で美琴達3人を拾い、俺の運転する車はそのまま国道を南下。海にぶつかったところで右折し、小田切城を目指していた。

 小田切城は難攻不落の城として有名で、現在は小田切市の観光名所となっている。城内には桜が植えられ、城を取り囲むお堀にはボートを借りて漕ぎ出すことができる。

「…それにしても、煉先輩、本当に運転初心者ですか?」

「当たり前じゃないか!まさか、俺が暴走族でもやっていたことがあると思うか?真琴…」

「まぁ、真面目な煉先輩に限って、それはないですね。いや、あまりに運転がうまいもので、びっくりしたんです!」

「そうかぁ!お姉と紗代は、先輩の車に乗るの、初めてだったんだよね!」

「そうだな。俺も、家族と美琴以外を車に乗せたのは、今回が初めてだよ」

「緊張しませんか?煉先輩?」

「それが、どうやら俺は天性の運転好きらしく、緊張も全くしないし、運転自体が全然苦にならないんだなぁ」

「会話しながらスマートな運転ができる煉先輩は、本当にすごいと思います」

「そうか。だから、先輩の車に乗っていても、普段とあんまり変わらない感覚だったんだ!」

「美琴…今頃気付いたの!?」

「だって、先輩が車を運転していること以外、今まで全く違和感に気付かなかったんだもん…」

「まぁ、俺は制限速度や交通ルールを守って運転しているだけなんだけどな…」

 そんな会話をしながら車を走らせること小1時間。俺たちは小田切城に到着した。

 城と道路を挟んで反対側にあるコインパーキングの中で、城から一番近いところを選んで駐車する。

「…観光地とは言え、都内に比べて駐車料金は安いなやっぱ…」

「どの位違うんですか?」

「都内だと、1時間で600円位取られるのはざらだよ。ここは1時間300円だから、都内に比べれば断然リーズナブルだと言えるな」

「やっぱり、土地が安いからかなぁ?」

「まぁそうだろうな。ここいらで新築一戸建てを買う場合、下手したらけやき商近くの中古の一戸建てを買うのと同じ位のお金で買えるらしいからな…」

「よくご存知ですね…」

「まぁ、伊東半島へ旅行に行くってことが決まって、小田切城周辺のこともリサーチしておいたからな」

「そう言えば、今歴女の間では各地の城を訪問するってのが流行っているみたいだけど…」

「残念ながら、この中に『歴女』はいないですよ!先輩。まぁ、強いて言えば、紗代が社会が得意って位かなぁ」

「得意なのと好きなのは違うと思うよ、美琴ちゃん…」

「…まぁ、とりあえず俺のばあちゃんがお昼を作ってくれてるから、城の中でシート敷いて、ランチタイムにしよう!」

「私たちのお母さんも、弁当作ってくれたんです!一緒に食べましょう!」

 こうして、俺たち4人はランチを携え小田切城の中庭へと入っていった。


* * *


「ご馳走様でしたぁ。先輩のおばあさんのおにぎり、とっても美味しかったです♪」

「それは良かった!美琴達のお母さんが作ってくれた弁当もうまかったよ!」

「そう言ってもらえて、母も喜びます!って言っても、母には話せませんけど…」

 小田切城の中庭でランチをすませた私たちは、ちらほらと残る遅咲きの桜を眺めていた。

「この辺りのこの時期って、まだ桜が残っているんですねぇ…」

「殆どが葉桜になっているところを見ると、残っているのは遅咲きの品種なんだろうな…」

「…さて、私と三枝さんは部員へのお土産を買ってきたいので、ちょっと出掛けてきますね!」

 そう言って私と紗代にウィンクをするお姉。

「………そうでした!!お土産ですね。買いに行きましょう!部長」

「真琴???お土産ならどこでも買え…」

「それじゃ煉先輩、出発は2時間後位で良いですよね♪」

「えっ!?あっ、ああ…」

「美琴ちゃん。また後でね!」

「紗代も気をつけてね」

 靴を履いて先輩の前に立ったお姉と紗代がペコリと頭を下げて、人混みの中へと消えて行く。

「そう言う訳ですから先輩!デートしましょ♪」

「…そうだな!」

「先輩、私…ボート乗りたいです。ダメですか?」

「よしっ、乗りに行こう!」

「やったぁ♪」

 シートやランチの残骸を素早く片付けると、私は先輩の手を引いてボート乗り場へと急ぐ。

「美琴!そんな急がなくても…」

「だってボート乗り場、並んでいるかも知れないじゃないですか!!」

 逸る気持ちを抑えきれず、先輩の手を引き続ける私。

 そして、ランチを食べた場所から2分位走った場所に『お堀でBOAT』と書かれた看板を発見した。

「先輩!あそこでボートを借りれるみたいです♪」

「どうやら、そのようだな…でも、美琴…すぐには乗れそうもないぞ…」

「あっ…」

 そう言われて先方のボート乗り場を見ると、数十人が列を成していた。

「…やめるか?美琴…」

「いやっ、ここまで来たんです!乗りましょう!!」

 こうして私と先輩の2人は、列の最後尾に並んだのでした。


 第5話へ続く