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剣世炸 novel site 〜秋風に誘われて〜

秋風に誘われて

著:剣世 炸

銀杏大学編

第3章 後輩の影

第1話「破天荒な後輩」

 1泊2日の熱沼旅行から無事に帰着した俺たちは、残りのゴールデンウィークをそれぞれ思い思いの方法で過ごし、俺は大学とバイトの、美琴は授業と部活の日常へと戻っていった。

「…それで、どうだったんだ?煉??」

「…何の話だ?」

「お前の彼女、彼女の姉、そして彼女の友達の4人で行ったって言う、ゴールデンウィーク中の熱沼旅行のことに決まってるじゃないか!」

「男は煉の1人に対して、女子高生3人との宿泊旅行、か…」

「…一体何を想像しているかは知らないが、俺は決して『間違い』は犯してないからな!」

「どうだか…」

「ほ…本当だぞ!!部屋も美琴達とは別々だったし…」

「…まぁ、そういうことにしておいてやるか。なぁ」

「そうだな。煉に限って、彼女以外の女に目が行くこともないだろうし」

「フォローになってないぞ…」

「そうか?」

“シャララララン♪”

「…噂をすれば、煉!彼女さんじゃないのか?」

「…そのようだ。ちょっと出てくる」

「いってら〜」

「…いつの言葉だよ、それ…」

 突っ込みも大概に、ダッシュで学生ラウンジから出る俺。

“ポチッ”

「もしもし?美琴!どうした?」

「あっ先輩!今電話大丈夫なんですか?」

「ああ。今日の講義も終わって、友達と駄弁っていたところさ」

「なら良かった!」

「美琴こそ、今部活の時間なんじゃないのか?」

「ちょうど今休憩時間なんです…で、先輩…実はお願いが…」

「『先輩が大丈夫なら、部活終わりの時間に迎えに来てもらえませんか?』だろ!?」

「!!どうして分かったんですか?」

「いや…当てずっぽうって言うか…『そう言われて迎えに行きたい』と思っていた、って言うか…」

「どっちにしても、嬉しいです♪とっても!!」

「『…琴先輩?……んぱ〜い?』」

「(ん?男の声??)」

「美琴?もしかして呼ばれてないか?」

「大丈夫です。今年入った新人が呼んでいるだけですから…」

「それなら、行ってやった方がいいんじゃないか?」

「いいんです。今は先輩とお話をしている時間なんですから♪」

「『美…せん…!部……がよん……ますよ〜』」

 スマホの先から微かに聞き取れる、新入部員と思しき男の声から察するに、美琴が真琴に呼ばれているように感じる。

「…美琴!そろそろ休憩時間、終わりなんじゃないか?」

「だから、気にしないで下さい……って……ヤバッ!」

「俺とはいつでも話せるんだから、早く部活に戻れ!」

「残念だけど…分かりました!」

「いつもの時間に行けばいいのか?」

「ううん。ちょっと部活内の仕事で時間が取られるから、今日は19時に迎えに来て欲しいなぁ♪」

「分かったよ♪」

「それじゃあ、19時までに仕事終わらせておきますね♪」

「練習、頑張れよ!」

「はいっ!」

“ツーツーツー”


***


「美琴先輩!!こんなところに居たんですね!」

 彼の名前は冴場龍哉(さえば りゅうや)。今年けやき商業に入学し、煉先輩やお姉に憧れてパソコン部に入部した新入部員だ。

 で、私は今部活の休憩時間を使って、パソコン室を出て数秒の渡り廊下で先輩との電話を楽しんでいたのだが…

「冴場君!どうせ『お姉が呼んでるから早く来い』って言うんでしょ?」

「『龍哉』でいいですって!…そういう先輩こそ、噂の『彼』と電話でもしてたんですか?」

「下の名前は、彼氏にしか呼ばないことにしてるの!」

「残念だなぁ…」

「で、『部活が始まる時間だから、早く戻るように』って、お姉から言付かっているんじゃないの?」

「そうですよ!だから、早く戻りましょう!」

 突然、右手に先輩とは異なる暖かな感触が広がる。

 その感触に違和感を覚えた私の体は、颯爽と右手を上へ跳ね上げ、右の手のひらに広がった違和感を払拭した。

 暖かな感触を提供した相手は、悪びれる様子もなく、私のことをニコニコとした表情で見ている。

「ちょっと!!!何をするの!!?」

 心を許していないこの後輩に対し、私は詰問を投げかける。

「いや、こうしないと、先輩動かないんじゃないか、と思って…」

「…お嫌だったのなら…謝ります。すいませんでした…」

「…もういいわ。そんなことより、早く戻りましょう!」

「はい…」

 彼のこういった行動は、今に始まったことではなかった。

 入学式名物の勧誘合戦の際は、新入生であるにも関わらず私たち在校生と共に(ていうか、ほぼ私と2人で)勧誘を行ったり、仮入部期間も私が入部した時と同じように、仮入部を経ずにいきなり正規部員となろうとしたりと、破天荒な行動が目立った。

 彼のことをお姉に話しても『あなたの方が余程破天荒だったわ』と言われ、あまり深くは考えてくれなかった。

 一方、親友の紗代は何か思うことがあるようだったが、彼のことについては『考えがまとまってから話す』とのことで、未だにその見解を知るには至っていない。

 普段から悪ふざけをするわけでもなく、たまに2人きりの状況になって今回のような破天荒な行動をいきなり取られても、私が自己防衛した上で詰問を投げかければ素直に謝罪をしてくるので、悪い人物ではないようにも思うのだが…

 そんな中、私と冴場龍哉は部活に戻っていった。

 部活が終わった後の家路で、あんなことになろうとは露知らずに…。



 第2話へ続く