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剣世炸 novel site 〜秋風に誘われて〜

秋風に誘われて

著:剣世 炸

銀杏大学編

第4章 大学サークル

第3話 作戦会議


「…という訳で、次の登校日は9月1日だ。宿題が無いからって、不規則な生活を続けたり、検定に向けた学習を怠ったりしないように!それじゃ解散!!」

「起立!…気をつけ…礼!!」

「忘れ物しないようにするんだぞ!!」

 7月下旬。

 けやき商は1学期の終業式を無事に終え、夏休みに入った。

「美琴ちゃん!」

「紗代!!」

「今日は部活なしって、お姉と若林先生が言ってたけど…」

「いやいや、そうじゃなくって…昨日の部活の帰りに話していた話のことだよ!」

「!!あぁ!あれね!!」

「…今日は部活もないし、駅前のカフェで話さない?」

「そうだね!そうしようか!?」


***


「お待たせ致しました〜カフェモカ2つでございます〜」

「ありがとうございます」

「どうぞごゆっくり〜」

 ゆるい感じの女性店員さんが、注文したカフェモカをテーブルに置き、奥へと下がる。

「それで…美琴ちゃん…本当にやるつもり!?」

「もちろん、そのつもりだけど…だめかなぁ?」

「煉先輩には、何て話すつもりなの?」

「当然、内緒だけど…」

「やっぱり…」

 先日、エキナカのカフェで話したときの、煉先輩のただならぬ雰囲気。

 先輩は『時が来たら話す』と言っていた。

 そして、私自身は先輩のことを信じている。

 だったら、本来ならば放置するのが筋なのかも知れない。

 でも、この前のゴールデンウィーク前に先輩がサプライズで運転免許合宿に行った時とは違い、今回は何だかとっても嫌な予感がするのだ。

 先輩が不可抗力によって、私が誤解をするような状況になってしまっているのではないか…と。

 って、それは『先輩は私以外の女性に興味を全く示さない』と自信を持っているような、あまりにも自画自賛すぎる考え方かも知れない。

 無論、私の目に先輩以外の男性が入ることなんて有り得ない。

 何故なら、私にとって先輩以上の男性なんて存在しないのだから。

「先輩に内緒で銀杏大学の校内に、大学生のフリをして入り込んで、先輩を遠くから見て様子の可笑しい原因を探る、か…」

「少し大人っぽい服装をすれば、大学生に間違われても可笑しくないと思うんだけどなぁ…」

「まぁ、それ以前に銀杏大学は学生以外が校内に入ることを制限していないから、例え制服姿で入ろうとしても、制止されることはないんだろうけど…」

「制服なんかで入ったら、すぐに先輩にバレちゃうからダメだよ…」

「それは分かってるって!だから、少し大人っぽい服装にするんじゃん!!」

「…私はママの服を借りれば大丈夫だろうけど、美琴ちゃんは?」

「紗代のママってデザイナーさんだもんね♪私は、お姉に頼めば大丈夫だと思う。お姉は私服で街を歩いていて、よく大学生に間違われて困るって言ってたから…」

「部長は大人っぽいからねぇ」

“ゴクゴク…”

「という訳で、明日は午前中に部活が終わるから、午後大学に付き合ってね」

「外ならぬ美琴ちゃんの頼みだから…一緒に行ってあげる♪」

「ありがとう、紗代〜」


***


 そして翌日の午後になり、九王子駅のトイレで制服姿から私服姿にチェンジした私と紗代は、電車に乗り銀杏大学へと向かった。

 冴場の家がある目野を通り過ぎ、豊川、立山、國立、そして西國文寺の次が銀杏大学の最寄り駅である國文寺駅となる。お目当ての銀杏大学は、そこから歩いて15分のところにある、山の中に作られた少し小さめ大学だ。

 大正時代に存在した財閥の1つが作った、経営や経済に関する私塾が始祖の大学で、多くの著名人を輩出した由緒ある大学の1つだ。

 図書館の蔵書数が近隣大学の中では抜きに出ているようで、國文寺から徒歩圏内の芸術大学や女子大学の学生も足を運んでいるそうだ。

 部活後すぐに学校を出て電車に飛び乗った私と紗代は、國文寺駅近くにあるファミレスで昼食を済ますと、スマホで地図を眺めながら銀杏大学を目指した。

「ねぇねぇ君たち、今暇?一緒に遊びに行かない?」

「…」

 大学に向かう途中、擦れ違い様にこんな誘いを数回受けたものの、うまい対応の仕方が分からない私と紗代は、少しうつむきながら『結構です』『すいません』といった意味で軽く会釈して、その場を乗り切った。

「…高校じゃあまり見かけないけど、ナンパって本当にあるんだねぇ…」

「…あれがナンパだったんだね…知らなかった…」

「…美琴ちゃん…いくらいつも先輩と一緒だからって、平和ボケし過ぎじゃない?」

「ごめんごめん…って、着いたみたい!」

 山を切り崩して作られであろう住宅街の坂道を数分登り、『ハムキャベ有りマス』『モツキャベ有りマス』と書かれた幟を掲げた食堂のあるT字路のその先に、銀杏大学の正門が見える。

「よし、それじゃ入ろう!」

「うん!」

 私と紗代は意を決して、銀杏大学の校門を潜り抜けたのだった。


第4話 に続く