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剣世炸 novel site 〜秋風に誘われて〜

秋風に誘われて

著:剣世 炸

銀杏大学編

第4章 大学サークル

第4話 潜入捜査

 けやき商と銀杏大学の夏休みの時差を利用した潜入捜査を決意した私は、友人の紗代と一緒に、私服で銀杏大学の門を潜った。

 時間は12時。銀杏大学は1講義90分構成で、午前中は9時からスタートする。

「…ちょうど大学の2時間目の講義が終わった当たりだねぇ」

「校舎から、少しずつ学生が出て来てるもんね」

“キーンコーンカーンコーーン…”

 けやき商でも使われているチャイム音が、構内に木霊する。

「チャイム、けやき商と同じなんだね…」

「なんか、大学にいる気分じゃないね」

 チャイムと同時に、それまで疎らだった人影が、数十倍に膨れ上がる。

 私たちが潜った門に向かう者、大学の売店に向かう者、『学生ラウンジ』と書かれた建物に入っていく者、『サークル棟』と書かれた建物に入っていく者…。

 それぞれの学生がそれぞれの思いで四方八方に散っていく。

「先輩は、昼休みって何をしているの?」

「うーん…サークルに顔を出していたり、友だちと食堂に行っていたり、かな…」

「今日、美琴ちゃんと私が大学に来ることは知らないんだよね…」

「もちろん!そうじゃなきゃ、潜入捜査にならないもの!」

「それじゃ、先輩がどこに居るか直接聞くのは難しいよね…」

「…いや…いつもの昼のやり取りで、それとなくなら聞けるかも!」

 私はスマホを取り出すと、トークアプリを起動し、先輩に連絡を試みる。

“せんぱ〜い!今日の昼は何してるんですかぁ?”

「…スマホでも、美琴ちゃんはいつもの感じなんだねぇ」

「まぁね!」

♪シャララン♪

「先輩、返信はやっ!!」

“今日は、友だちと一緒に食堂に行く予定だよ♪”

「紗代!食堂だって!!」

“ねぇ先輩…今からそこに行くって、有!?”

「ちょっと!美琴ちゃん!!そんなこと言ったらバレちゃうんじゃ…」

「大丈夫だよ!本当に大学まで来るなんて思わないから!ていうか、いつもこんな冗談は言ってるし♪」

♪シャララン♪

“またまた…今日は登校日だろ!この前午後までかかるって、言ってたじゃないか!”

「ほらね!」

「先輩…実はもう来てるんですよ…」

“じょうだんだよ〜それじゃ、午後も頑張ってね♪”

「これでよしっ…と」

「…美琴ちゃん、本当にヤルの?」

「ここまで来て、しかも先輩がこの昼休みに食堂に居るっていうのが分かっているのに、『やっぱや〜めた!』はなしでしょ!?」

「そりゃそうかもだけど…どうやって食堂に入るつもり?いくら私服だからって、私と美琴ちゃんの2人だと、少し目立つんじゃない?」

「確かに…そこまでは考えていなかったけど…」

 その時、私と紗代に見知らぬ男性2人が話しかけてきた。

「ねぇ君たち!あまり見ない顔だけど、銀杏大学の学生?」

 話しかけてきた男性2人は、明らかに銀杏大学の学生だった。

 國文寺駅から大学構内に入るまでの間に受けた、人生初の『ナンパ』をやり過ごした時と同じように俯き加減になりそうな私を、隣にいる紗代が肘で突く。

「(紗代…一体何をするつもり?)」

 その目には『これから何かをするぞ』といったメッセージが込められていたような気がした。

 そして…

「私たち、津田大学大平キャンパスの学生なんです。実は、銀杏大学の図書館に用事があって来たんです」

「(紗代…どういうつもり?)」

 津田大学とは、國文寺市の隣りにある大平市にキャンパスを構える大学で、由緒ある女子大だ。

 そして、図書館の蔵書数で群を抜くここ銀杏大学には、津田大学を始めとした國文寺駅周辺の大学生が集まって来るのだが…

「…」

 隣の紗代は、まるで『話を合わせろ』と言わんばかりに、再び肘で私の脇腹を突く。

「…そ…そうなんですよぉ♪私たち、ちょっと銀杏大学の図書館で調べたいものがあって、お邪魔してるんですぅ〜」

「(…って、大学生のフリをしちゃったけど、大丈夫かなぁ…)」

 心配になり紗代を見ると、アイコンタクトで『大丈夫』と合図を送ってくる。

「そうなんだ!確かに、津田大学の女子大生は、よくここに来てるもんなぁ…」

「ところで…俺たちこれから大学の食堂で昼飯を食いに行くところなんだけど、一緒にどうだい?津田大学の話とか聞かせてもらえると、俺たち嬉しいなぁ、なーんちって!」

「俺たち男子学生は、当然女子大のことなんて分からないから、興味あるんだよね!昼代は俺たちが出すから、一緒にランチしないか?」

 普段の私なら、速攻で断っていたことだろう。

 だが潜入捜査中で、しかも先輩がこれから行こうとしている食堂に目立たず潜り込める絶好のチャンスだ。

 私がその考えに至るよりも前に、紗代の口が先に動いた。

「本当ですか!実は私たち、これからお昼どうしようか?って悩んでいたんです!」

 再び紗代の肘が私にヒットする。

「そ、そうなんですよぉ♪でも…初対面の私たちに、お昼代まで出してもらっちゃって、いいんですかぁ?」

「そんなこと、気にしないで!俺たち、こう見えても結構バイトで稼いでいるからさぁ!なっ」

「おうよ!」

「(…何だか、うまくいったみたい…)」

 こうして私と紗代は、タイミング良く私たちにコンタクトを取ったナンパ師二人と共に、銀杏大学の食堂へと潜り込むことに成功したのだった。


 第5話 に続く