著:剣世 炸
銀杏大学編 prologue
「せんぱ〜い!!」
けやき商と見間違えるほどの桜並木を擁する銀杏(いちょう)大学構内の道を歩いていると、後ろから馴染みの声が聞こえてきた。
後ろ髪は可愛いピンク色のリボンを使ってポニーテールでまとめていて、大きな目につけた『つけまつげ』が、とても映えて見える。
新調したであろうスーツを身に纏った姿は、制服姿から大人への階段を一歩上がったようにも感じた。
「…今日は遅刻せずに大学まで来れたみたいだな!」
「確かにこの前練習で来た時は遅刻しちゃいましたけど、あれは電車が遅れたせいで…」
「冗談だよ!冗談!」
「もぅ!先輩の意地悪…でも、そんな先輩も大好きです!!」
公衆の面前であるにも関わらず、声の主は俺に抱きついてきた。
その姿を見た周囲の学生の、羨望の眼差しを俺は感じずにはいられなかった。
「こらこら!ここは大学だぞ!」
「…駄目なんですか?先輩…」
「…………駄目じゃないさ。でも、ここじゃあれだから、な…」
上目遣いで顔を見てくるその相手の頭を撫でながら、俺は言った。
「はいっ!」
「さぁ、入学式まで時間がない。3年前と同じように、今度は宣誓の言葉、期待してるからな!」
「ふぇ〜。折角先輩とお話して緊張がほぐれたと思ったのに…ていうか、練習に何回も付き合っていて、内容は分かっているでしょ?」
「…まぁな。兎に角、会場まで急ごう!」
俺は声の主の手を取ると、会場である体育館に向かって走り出した。
「…先輩、私、とっても幸せです」
「…俺もだよ」
突如、俺たちを春の暖かな風が包み込む。
そして、風に煽られ舞い上がった桜吹雪が、2人の学生生活の前途を祝福するかのように舞っていたのだった。