原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode1「襲撃」 第4話〜連携〜
その時、森中に響く大きな咆哮が俺たちを包み込んだ。声の主は、仲間が倒されたことに怒り狂った、俺たちが相手をしていた最後の一体であった。
ふと、二人に突撃していったコボルトを相手にしているはずのシューとサリットに目をやると、二人は護身用の短剣でうまく戦闘を繰り広げたようで、二人の足元には絶命したコボルトの遺体が転がっている。
「これで最後みたいね!ねぇ、少し力を貸してもらえる?」
「あぁ、もちろんだ!どうすればいい?」
「5秒でいいわ。コボルトの動きを止めてくれる?」
もっと無理難題を押し付けられると思っていた俺は、拍子抜けしながら返事を返す。
「了解!」
とは言え、返事を返した際にコボルトの動きを止める有効な方法など思いついてはいなかった。自分より図体の大きい相手を止めるには…。思考回路がフル回転し、とっさにシューとサリットに目をやった。連携プレイでコボルトを仕留め終えていた二人は、こちらの戦闘の様子を伺い、いつでも戦闘に入れる態勢をとっていた。
”よし!この状況ならやれる!”
俺の頭脳は、見事な勝利の方程式を導き出した。
「サリット!お前の短剣を貸してくれッ!」
いきなり呼ばれたサリットは、驚きながら答えた。
「なんで!?短剣ならあなたも持っているでしょう?」
「いいから早く!」
コボルトは怒り狂い今にも突進をしそうな勢いだ。サリットは鞘に収まった短曲剣(マインゴーシュ)を投げてよこした。
軌道が左右に湾曲しながらも、サリットの見事な遠投技術により、短曲剣は俺のすぐ横に立っていた巨木に突き刺さった。
「あとで必ず返してよね」
「サンキュー!」
短くお礼を返すと、巨木に突き刺さった短曲剣を抜き去り、コボルトに向き直る。荒れ狂う血走った妖精を見て恐ろしさを感じつつも、俺はいきなり短曲剣を上に投げた。予測不能な軌道を描き上空に投げられた短曲剣に、コボルトの視線が釘付けになる。
”よし、今だ!”
俺は地面にあった小石混じりの砂を手ですくい上げると、短曲剣の軌道に釘付けになっているコボルトの顔に投げつけた。
一瞬にして視界を失ったコボルトは混乱し、後ろによろめく。だが、すぐに目の前にいる敵の仕業だと認識したのか、少しずつ回復しつつある視界と気配で俺を捉えながら、更なる怒りの咆哮を上げ、右手に持った棍棒を振り回しながら、俺に迫ってきた。
「お前、何やってんだよ!そんなに怒らしたら…」
こちらの戦闘を見ていたシューが俺に忠告した。だが、シューが忠告を言い終える前に、今度は俺が叫んだ。
「これでいいんだよ!!」
俺がそう言い放つと同時に、上空に投げた短曲剣が俺の目の前に落ちてきた。俺はそれを左手で拾い上げると、コボルトの突撃に備えた。
刹那。コボルトが棍棒を振り下ろす前に、右手のショートソードで受け止めた俺は、サリットから借りた短曲剣の峯でコボルトの反対の腕を抑え込んだ。
未だに視界が完全に回復していないコボルトは、自分がどうして両腕の自由を奪われているのかが分からず、混乱した。
その直後、この状況を待っていたかのように、澄んだ声が響き渡った。
「私の見込みに間違いはなかった!アコード、ありがとう!」
「あまり、時間は稼げそうもないぞ!」
「ええ。さっきも言ったけど、5秒あれば十分よ」
俺の訴えに、大きな跳躍を見せながら、アルモが応える。
大きく浮かぶ満月のシルエットにすっぽりと入ったアルモは、頭上に光の剣を掲げると、そのままの体勢を維持しつつ、俺が抑え込んでいるコボルト目がけて落下を始めた。
その様子を見ていた俺は、アルモが一撃を浴びせるギリギリまでコボルトを抑え込み、光の剣が振り下ろされる直前に、横に飛びのいた。
支えを失ったコボルトが前のめりになる前に、落下してきたアルモが光の剣を振り下ろし、コボルトの体は縦に真っ二つとなった。
だがその直後、真っ二つになったコボルトのシルエットが光の塵となって離散。跡形もなく俺達の前から消え去った。
その直後、俺が周囲を見渡すと、アルモが光の剣で倒したコボルトの死骸は跡形もなく消えていて、残されていたのは俺たちが短剣やショートシードで倒したコボルトの死骸だけであった。
俺は、戦闘の勝利とアルモの不思議な剣の力に心奪われ、時間が止まったようにも感じた。しかし、その静寂を破ったのは、マインゴーシュを俺に貸した少女であった。
「ボーっとしてる暇はないよ! 早く倉庫へ!」
サリットの言葉で我に返った俺は、現状を再確認すると、仲間と共に走り出した。
だがその直後、足音が一人分足りないことに気づいた俺は、立ち止まると先ほどまで戦闘を繰り広げていた場所を振り返った。
すると、アルモが戦場に残されたコボルトの亡骸を、まるで大切な人を亡くした時のような目でながめていた。
コボルトの亡骸の前で、彼女は何かを呟いているように見えたが、アルモの名を呼ぶと顔をあげ、この夜空に浮かぶ月のような暖かい笑顔で頷き、駆け出した。
アルモが何を呟いていたのか、俺はうまく聞き取れていなかったが、口の動きから、こう呟いているような気がした。
「かわいそうに…」と…。