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剣世炸 novel site 〜月明りの少女〜

月明りの少女

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode2「旅立ち」 第1話 〜撃退〜

 青龍の月15日。

 この日は、フォーレスタ村の年に一度の祭事だった。

 コボルトの騒動から十日余り。村人たちは、その動乱を忘れるかの如く、ハメを外していた。村の広場では、老若男女を問わず大人たちが酒を酌み交わし、祭事を、そして村が守られたことを心から祝っていた。

 子どもたちは、大人たちの制止にわき目も振らず、そこら中を走り回っていた。大人たちは、この祭事の意味を子どもたちに語ろうとはしなかったが、多感な年ごろの子どもたちは、村の雰囲気を自然と察知し、この祭事を大人と一緒になって楽しんでいた。

 村長の息子で、今回の騒動の鎮静化に尽力した俺の元には、次から次へと村人が訪れ、功績を讃えられた。だが、村人たちに英雄として祭り上げられながらも、俺の脳裏に浮かんでいたのは、コボルト襲来から今日までの十日間のことであった。

 騒動を鎮静化させるため村中を駆け回り、被害状況の取りまとめや王都への救援物資を依頼するためのリスト作りに奔走しなからも、破壊された家屋の修復にまで携わざるを得ない程大忙しだったこと、そしてコボルトとの戦闘に勝利した時の、女神のようなアルモの姿であった。

***************

 あの夜、俺たち四人はコボルトとの戦闘後、無事倉庫に辿り着き、火矢を村の中心まで運び込んだ。そして、村人総出でコボルトの撃退準備をはじめた。

「もしかして、これに火をつけて撃退するというの?」

 アルモが、まるで独り言のように俺に問う。

「あぁ…コボルトは強い光に弱い。以前は村の周囲をたいまつで囲んでおけば、凶暴化したコボルトも村の中までは入って来なかったが、それにも慣れてしまって…。でも、火矢の予測不能な光の動きが、凶暴化したコボルトにも有効なんだ。今この村には、その位しかできることがないんだよ…」

 少し悲しげに俺は応えた。

「でもこんなの放ったら村中火の海よ!?」

 アルモは激昂した。だが、村中火の海になることは、俺も重々承知の上だった。

 満月の夜、コボルトの侵攻がフォーレスタを襲う度、放った火矢の周囲にある木々に燃え広がり、酷い時には村の家屋にまで引火するという有様だ。そうなることが分かっていながら、凶暴化し何もかも破壊しようとするコボルトから村を守らねばならない…。こんな方法でしか、村を守ることのできない自分に対して、情けなく思っていた。

「いいから、それ貸して!」

「貸してって、何を?」

「あなたの持っている弓と矢のことよ!」

 アルモは、俺が持っていた弓と矢をその手から無理矢理ひったくると、それを目の前の地面に置き、剣を頭上に掲げて叫んだ。

「ウィル・オ・ウィスプよ。主である我が名において命ずる。我に、邪の心を切り裂く光を!」

 アルモが命ずると同時に、剣がこれまでにない輝きを見せ始めた。

 剣が輝き始めたことを確認したアルモは、剣の切っ先を地面に置いた弓と矢に向けた。すると、剣が湛えていた光がみるみると弓と矢に移り、神々しく光る弓矢へと姿を変えた。

 光を失った剣を鞘に納めたアルモはそれを拾い上げると、俺に手渡した。

「それを、あなたの真上に向けて射って!」

「…コボルトは飛ばないから、真上に放っても意味はないと思うが…」

 弓矢を受け取った俺は、アルモの言葉の真意が分からず戸惑った。

「いいからやって!」

「…分かった」

 アルモの真意が分からないまま、俺は右手で光の矢を持つと、光り輝く短弓(ショートボウ)にセットした。そして、ピンと張られた弓弦を力一杯引くと、矢の切っ先を頭上に定め、光の矢を天へと放った。

 すかさずアルモは剣を鞘から再び抜き、天に向け構えると再び光が剣に集まり出した。

「ウィル・オ・ウィスプよ。我再び命ずる。光の雨で、邪の心を浄化せよ!」

”シャイニング・ネーーベルッ!!”

 アルモが魔法を解き放った瞬間、剣に集められていた光が天に放たれた光の矢をめがけて、一気に上昇した。そして、剣から放たれた光が矢に追いつき、光と光がぶつかったその瞬間、光が四方八方に離散し、まるで無数の流れ星のようにフォーレスタの森全体に光が降り注がれた。

 あまりにも神々しい光景に、アルモの間近にいた俺だけでなく、村人全員が立ち止り、天から降り注ぐ無数の光の虜となった。

 数分後、最後の光が森の闇へと吸い込まれると、森は静寂を取り戻し、狂気に満ちたコボルトの気配すらも、森から完全に消滅しているように俺は感じた。

「これで…大丈夫…のはず、よ…」

”バタン”

 何の予告もなく、その場に倒れ込むアルモ。

「アルモ!!しっかりするんだ!!…シュー、サリット!アルモを俺の家まで運ぶぞ!」

「「了解」」

 近くにいたシューとサリットに応援を頼むと、その場に倒れたアルモを担ぎ、俺の家へと運び込んだ。