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剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode3「捕縛」 第1話 〜旅の目的〜

 フォーレスタの森を抜け出した俺とアルモは、そのまま行けば王都へとつながるフォーレスタの北側の街道を歩いていた。

 フォーレスタを出てから暫くは、俺とアルモのコボルトとの共闘について語り合っていた。

「いや、やっぱり君は私よりも素質あるわよ」

「そうかな?」

「絶対あるわ。その腰につけているショートソードには微力な魔法がかかっているわ。それを、普通のショートソードのように扱えたのだから。もしかして、ご先祖様が魔法使いだったとか…」

「うーん、フォーレスタ家の家系図を見たことはあるけど、魔法使いみたいな名前のご先祖様はいなかったはずだが…」

 そんな他愛もない話を繰り広げた後、俺とアルモの口数は次第に減って行った。

 話題のなくなった俺は、歩きながら周囲を見渡した。

 天気は快晴。

 遠くに見える王都のシルエットや、後ろに見える広大なフォーレスタの森が、まるで蜃気楼のように輝いて見える。

 そんな中、俺はふとした瞬間に気付いたことがあった。

 俺たちは一体、どこへ向かっているのだろうか?

 そして、アルモの旅の目的は?

 アルモは何故光の剣を持っているのか?

 フォーレスタで放った魔法は?

 そんな疑問が頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していると、アルモがそれを察してか、少し真剣な面持ちで話しかけてきた。

「…それで『私が何で旅をしているか』とか『私の素性』とか、君に全く話していなかったわよね…」

「…確かに、聞いてなかったな…それから、俺の事は『アコード』でいいぜ。俺も『アルモ』って呼ぶから、さ」

「…分かったわ。それでね、アコード。私の旅の目的何だけど…笑わないで、聞いてもらえるかな…」

「分かった。笑わないから、話してみてくれ」

「私の旅の目的は…この光る剣を使って、この世界を解放することなの!」

「(世界を、解放する!?)」

 俺は『笑い』よりも『疑問』の方が先に浮かんできた。

「…笑わない、のね…」

「…いや…世界を解放って、そんな壮大なことを言われても…というか、今この世界は、何かで『封印』でもされているのか!?」

「まぁ、平たく言えばそういうことになるわね」

「アコード、私が魔法を使うの、見たわよね!?」

「あぁ、コボルト達を撃退した、あの光の魔法のことだな」

「ええ。この世界で『魔法』は禁忌とされていて、使用を許されるのは、修行を積んだ高位の聖職者か、魔の道に染まった魔物、そしてエルフやコボルトと言った妖精のみ、のはずよね」

「その通りだ」

「…でも、おかしいと思わない?人間で魔法が使えるのが『高位の聖職者』だけだなんて…」

「…村には高位の聖職者が居なかったから考えもつかなかったけど、アルモの言う通り、妖精だったり魔物が魔法を使えるんだとしたら、人間の中で『高位の聖職者』しか魔法が使えないなんて、何だか変だよな…現に、俺の目の前にいるアルモは、魔法を使っているわけだし…」

「しかも、その魔法が使える『高位の聖職者』と呼ばれる人たちって…」

「『ワイギヤ教団』の聖職者達だけだ!!」

 ワイギヤ教団とは、この世界のほぼ全ての国で国教となっている宗教で、各地に教団の寺院が建てられる程、大きく、そして権力を持つ宗教団体だ。

 ワイギヤ教の教えでは、他の宗教との争いをよしとしないため、宗教間の争いも発生しておらず、また教義の基本が「人に親切であれ」なため、多くの人々、多くの国々に受け入れられ、この世界のほとんどの人が教団の信者となった、と教えられている。

「世界の平和は、教団の元に成り立っていると言っても過言じゃないけど、もしそれが、教団が本来人間で共有できる魔力を独占したいがために、信者に対し魔法を禁忌だとしているのだとしたら…」

「!!!」

「当然、教団はそのことを隠しているけど、教団から禁止されている魔法の研究を密かに行っている国があるの。この大陸にある国、フォーレストもそのうちの1つ。だから、今は王都に向かう街道を歩いている、という訳」

 アルモの話はあまりにも唐突過ぎて、俺の理解の範疇を超えていた。

 この世界の歴史とも言えるワイギヤ教団が、魔法の存在を信者である人間に隠しながら、その恩恵を一手に享受している、とは…

 こんな話をしているのが教団の関係者にバレたら、きっと俺とアルモは異端審問にかけられ、処刑されることだろう。

「…アコード、大丈夫!?」

「…いや、あまりに話が俺の理解を超えていたものだから…」

「すぐに信じろ、というのは無理だと思うけど…」

「…いや、アルモは『異端審問』の危険を顧みず、魔法を使って村を救ってくれた。俺は、アルモの話、信じるよ!」

「アコード…ありがとう」

 街道を歩きながらそんな話をしていると、いつの間にか時は夕刻を迎えていた。

「…あそこに小さな集落が見えるわ。今日はあそこでお世話になることにしましょう」

「それがいい!」

 俺とアルモは、遠くに点々と見える家々と明かりを頼りに、今日の宿を求め、その歩みを急いだ。