原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode3「捕縛」 第2話 〜レイスの襲撃〜
「…悪いが、お前らを泊めることはできない。帰ってくれ!」
“バタン”
乱暴にドアが閉められ、外につけられた鉄製の取っ手が“カンカン”と音を鳴らしている。
「…困ったわね…」
「…別の家をあたってみよう。たまたま、この家の人の機嫌が悪かっただけかも知れない」
ところが、どの家を訪問しても、結果はNOだった。
「…この集落で、一体何があったのかしら?」
「アルモ、あそこに見えるのは、寺院じゃないか?」
俺は、まだ足を踏み入れていないこの集落の方角を指さす。
「確かに。寺院なら、無碍に訪問を断らないでしょうし、事情を聞きに行ってみますか」
そう言うと、寺院に向かいながら、剣を綺麗な布で包み出すアルモ。
「…その布は?」
「これは、この剣の魔力を外に放出しないために、特別に作られた布なの。寺院に、魔法を使える聖職者がいたら、この剣はやっかいなことになるから…」
「確かに。そんなことも想定して、アルモは旅をしているんだな」
「まあ、ね。この布を手に入れたのは、旅立った後だったけどね…」
「そう言えば、旅の目的はさっき話した通りだけど、旅立ちのきっかけとか、身の上話はまだだったわね…」
「ああ。今日の寝床を確保できて、話す気があるなら話してくれ。話す時間は、たっぷりあるんだから」
「そうね」
そうこうしているうちに、俺たち2人は寺院の門前に到着していた。
「…アコード!何か様子が可笑しくない?」
到着早々、アルモは異様な雰囲気を感じ取り、俺に問いかけてきた。
鉄製の門は、上部の蝶番が外れ、今にもとれかかりそうになっている。
中庭を経て数歩先にある寺院の建物に目をやると、木製の入口の半分がボロボロに破壊されている。
中庭に咲いていたであろう花は無残に踏みつぶされ、見る影もなかった。
「…何者かに襲撃を受けたんだわ…寺院から、血の匂いがする…」
「慎重に、中に入ってみよう」
俺はアルモから譲り受けた、魔力を帯びたショートソードを身構え、アルモはさっと魔力遮断の布を剣から取り去ると、鞘から剣を抜き、目の前に身構えた。
「…まだ、寺院に教団の聖職者がいないと決まった訳じゃないぞ。アルモ、大丈夫なのか?」
「そんなこと、言ってられないでしょ!?それに、ワイギヤ教団は、環境整備を怠らないことで有名なの。門や中庭のあの惨状を見れば、この寺院に教団関係者がいない可能性の方が高いわ」
「…慎重に進むしかないな」
「ええ」
俺とアルモは、各々の武器を身構えたまま、とれかかった門には触れず、中庭へと侵入した。
「…血の匂いが濃くなった。やっぱり、あの寺院の中は…」
アルモの言葉に、想像したくない光景が俺の頭を過ぎる。
「あの中に、この犯人がまだ居るかも知れない…」
「ええ。入口まで来たら、両サイドに分かれて中の様子を伺って、様子が分からなければ1、2、3の合図で突入しましょう!」
「了解!」
寺院の入口まで到着した俺たちは、アルモの作戦通り入口の両サイドに分かれ、中の様子を伺う。
「…暗くてよく分からないわね…」
「仕方ない。アルモの合図で突入しよう」
「分かったわ。1……2………3!!」
俺たちは閉じかかっているドアを蹴り開き、寺院内に突入した。
薄暗かった寺院内部を、オレンジ色の西日が照らし出す。
「!!!」
俺とアルモは、内部の惨状に絶句した。
「…これは、ひどい…」
「誰が、こんなことを…」
寺院内には、参拝者であろう遺体が散在し、中央の台座には、この寺院の主と思しき僧侶の遺体が横たわっていた。
その時…
「アコード!気をつけて!!」
突然のアルモの忠告に、何とか身体を動かし、周囲を見渡す。
すると、目にも留まらぬ速さで動く一つの影を確認できた。
「アルモ!」
「きっと、犯人よ!」
寺院の中央付近まで突入していた俺たちは、互いを背中合わせにしてその場に立つ。
「背中は預けたわよ」
「ああ」
刹那、見えない敵が魔法らしきものを放った。
“スピリットドミネーション…”
俺たちの頭上に、紫色の雲のような物体が突然現れたと思った次の瞬間には、それは俺たちを包み込んでいた。
「いけない、アコード。早く、この場から…うっ…」
その場に蹲るアルモ。
「アルモ!どうした!!」
「…私の…ことは……早く…にげ…て…」
そのまま気を失い、アルモはその場に倒れ込む。
「ほほう。私の精神支配の魔法に耐えるとは…あんた、何者だい!?」
顔を上げ入口の方向を見ると、露出の多い派手な服を身に纏った女性が立っていた。
「お前!アルモに、一体何をした!?」
「何さ、簡単なことさね。精神支配の魔法をかけただけさ。命に別状はないはずさ」
「それよりも、あんた、魔法に耐性でも持っているのかい!?私の魔法をはじき返すなんて…」
俺は、目の前の女性が何のことを言っているのか、さっぱり理解できなかった。
「まぁ、いいさ。その手の物が伊達なのか、試してみるだけさね」
「お前は一体何者だ!」
「これは失礼。私はレイス。盗賊さ。お前は?」
「俺は…アコードだ!」
そう言うと同時に、俺はショートソードを構え、地面を蹴った…