原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode3「捕縛」 第3話 〜捕縛と脱出〜
“キーン”
刃と刃がぶつかり、独特の金属音が寺院内に鳴り響く。
地面を蹴って勢いをつけた俺の一撃を、レイスは短剣で受け止めた。
「…なかなかやるわね」
「そりゃ、どうも!!」
刀身に力を入れると、相手の短剣から伝わる力の反動を利用し、数歩後ろへ飛び退く。
「(…俺のショートソードの一撃を短剣で受け止められるということは、力は俺以上にあるということか…)」
ふと、相手の短剣を見ると、俺のショートソードと接触していた部分が欠けていることに気付く。
「おやおや、そのショートソードには、どうやら『魔法』が込められているみたいだね…どこでその剣を…いや、そんなことはどうでもいいさね」
「どういうことだ!」
「どうせ、その剣は数分後には私のモノになっているからだよ!」
するとレイスは短剣を勢いよく寺院の壁めがけ投げ捨てた。
そして、背負っていた鞘から2本のショートソードを両手で抜き去ると同時に、地面を蹴り俺に突撃してきた。
“キーン”
“ドフッ”
「グワッ…」
「…今のあんたに、そのショートソードは『宝の持ち腐れ』だよ!」
レイスの片手の一撃を俺はショートソードで防いだものの、もう一方のもち手の一撃をわき腹に食らいその場に蹲ると同時に、口から生暖かいものが吐き出されるのを感じた。
「いくら魔法に耐性があるとは言え、弱っている身体にこの魔法を弾くだけの力はあるまい…」
“スピリットドミネーション”
俺の頭上に、再び紫色の雲のような物体が突然現れ、俺を包み込む。
「くっ…そ…」
“バタン”
俺はレイスの精神支配の魔法に犯され、その場に倒れ込んだ。
***
「…ア……ド……アコー………アコード、アコード!しっかりして…」
朦朧とする意識の中、俺は俺の名を呼ぶ馴染みとなった声に導かれ、目を開けた。
「アルモ…ここは一体…」
「寺院で出くわしたあいつに、ここに運ばれてきたみたい…」
周囲を見渡すと、そこは洞窟の牢の中のようだった。
鉄格子の外の廊下には、たいまつが轟々と燃えているのが見える。
そして、その下に俺のショートソードとアルモの剣が立てかけられていた。
「そうか…俺たち、捕まってしまったんだな…」
「そうみたい…早く王都に行って、ガイーラさんと合流しないといけない、というのに…」
「ガイーラ、とは?」
「フォーレストの近衛隊長を務めている、私の古くからの友人なの」
「その人と合流する途中にフォーレスタにたまたま立ち寄って、俺たちの村を救ってくれた、という訳か…」
「そういうことになるわね」
“コツコツコツコツ…”
「シッ…誰か来たわ…」
“コツコツコツ…”
「…この2本の剣は、確かあの子が持っているはずのもの…」
「!!その声は、ガイーラなの!?」
「アルモ!アルモなのか!?」
鉄格子の向こう側に、長身の騎士が現れる。
「やっぱりアルモだったんだな…一体どうしたんだ!?」
「ガイーラ!あなただったのね…良かった…あなたこそ、どうしてこんなところに!?」
「王都近くの村の寺院が襲われている、という報告を受けて調査をしに来たんだが、酷い有様になっていてな…」
「それで、それを仕出かした犯人と思しき人物の後をつけてきたら、ここにやってきた、という訳だ…アルモは、まさか…」
「その人物と戦って、見事に負けたわ…私は、精神支配の魔法をかけられて、すぐに戦線離脱しちゃったんだけど…アコード!あなたは、もしかして…って、まだ紹介していなかったわね…アコード、ここにいるのが、さっき話をしていたフォーレスト国の近衛隊長ガイーラさん!」
「アコード=フォーレスタです」
「フォーレスタって…フォーレスタ村の村長の一族か?」
「はい。今は私の母が村長を務めていますが…」
「そうか…それでアルモ、何か言い掛けていたようだけど…」
「そうだったわ!アコード。私はあいつの魔法にやられてしまったけど、貴方はどうだったの?」
「俺は、最初の魔法を弾き返せたみたいで、そいつと…レイスと戦った」
「レイス…あいつはレイスというのね…」
「(レイス…)」
レイスという名を聞き、首を傾げるガイーラ。
「ああ。でも、俺の攻撃は通じなかった。レイスの攻撃をもろに食らって、2回目の魔法で俺は気を失ったんだ…」
「そうだったの…」
「2人とも、立てるか!?とりあえず、ここから急いで出たほうがいい」
「そうね。ガイーラさん、この鉄格子、どうにかできる!?」
「ちょっと待ってろ。2人とも、そこから離れて」
牢の奥へ下がる俺とアルモ。
次の瞬間、ガイーラは剣を鞘から抜き去ると、目のも留まらぬ速さで錠前を攻撃し、破壊した。
“ギィ”
鈍い音と共に、鉄格子の扉が開く。
「さぁ、こっちだ」
「ありがとう、ガイーラさん」
「ありがとう」
牢から脱出した俺とアルモは、たいまつの前に立て掛けられたそれぞれの武器を手に取ると、ガイーラの後に続いた。
しばらくすると、出口らしき光が見えてきた。
「もう少しでここから脱出できるぞ!」
「そうみたいね。急ぎましょう!」
「ああ」
そして、外に出た瞬間…
「ご苦労さん!お三方!!」
俺たちは、聞き覚えのある声に立ち止まり、振り返った。