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剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode3「捕縛」 第4話「誤解と和解」

「…やはり、お前だったか…」

「主!なぜ主がここに!?」

「それはこちらのセリフだ、レイスよ…」

 外で俺たち3人を待ち構えていたのは、俺とアルモを魔法で眠らせ、今出てきた牢獄へ閉じ込めていたと思われる、レイスその人だった。

 そして、俺たちを助けてくれたガイーラさんは、レイスと顔見知りのようだった。

「ガイーラさん!そこにいるレイスは、私とアコードを魔法で意識を失わせ、牢獄へと閉じ込めた張本人です」

「レイス!どうしてそんなことをしたんだ…」

「主と待ち合わせをしていた寺院を訪れたら、そこの2人が先に居て…寺院内が燦々たる有様だったから、私はてっきり…」

「ガイーラさん、レイスさんとはどういう関係で…」

「ああ、すまない。レイスは、俺の懐刀なんだ。今回も、先に寺院に行って様子を見ておくよう言ってあったんだ」

 ここで、1つの疑問が浮かぶ。

「でも、レイスがガイーラの懐刀だとして、どうしてお互いに気づかなかったんだ?」

「レイスは元盗賊で変装の名人なんだ。レイスとの付き合いは長いが、今でも知らないレイスの姿に驚くこともしばしばだ」

「それに、俺がレイスの後をつけたのは、アコード君、君が担がれて運ばれているときだった。いくら俺でも、変装をしていて、人を担いでいる人を遠目の背後から確認することは不可能だよ」

「まぁ、それは確かに…で、レイスは?」

「私は、あんたたち2人をこの洞窟に運ぶのに手一杯だったから…それでも、私をつける人影の存在は把握していたけど、それが主だとは思わなかった訳で…」

「でも、あんたたちを牢屋に入れた後、持っていた武器を確認したら、血糊は全くついていなかった。だから、あの寺院での惨劇は、あんたたちが起こしたものじゃないと分かった」

「それで、私たちを殺しもせず、武器を隠すようなこともしなかったのね」

「そういうことさね。武器を確認した私は、私を追っていた人影をこの洞窟に誘い込むことにし、洞窟に入ったフリをして、その人影が2人を救出して外に出てくるのを待った…という訳さ」

 辺りを見渡すと、すっかり夜の帳が下り、頭上は満点の星空になっていた。

「…すっかり夜になっちゃったわね…ガイーラさん、今日はレイスさんの洞窟で休むということでどうかしら?」

「レイス、どうだろう?」

「はい。4人分位なら、この洞窟に食料や寝るための藁があるかと…」

「決まりだな…」

「アコード。私はちょっとガイーラさんと話をしたいから、レイスと先に洞窟に入っていてくれる?」

「えっ!?あ、ああ。分かった…」

「さぁ、こっちだ」

 俺はレイスに連れられ、洞窟の中へと入っていった。

***

「ガイーラさん…いえ、ガイーラ…会いたかったわ…」

「俺もだよ。アルモ」

 髪留めをとった私の金色の髪を月明りが照らし、まるで私の持つ剣が放つような、ほのかな光を放っているのが分かる。

 そう、ガイーラは、フォーレストの近衛隊長以前に、私の恋人なのだ。

「それにしても、こんな形で再会するとは…本当は、王都で落ち合うはずだったんだがな…」

「まあ、そんなことはどうでもいいじゃない。こうして無事に再会できたのだし…」

「それにしても、あのアコードは、信用できる人物なのか?」

「…そうか、あなたは知らないのね…アコードは、私のショートソードを、魔法の訓練なしに使いこなしたのよ…」

「なんだって!?」

「私が王都に向かう途中に立ち寄ったフォーレスタ村は、狂気に満ちたコボルトの集団に襲われていたの。その時、私のショートソードを少し貸したんだけど…」

「その戦いで、アコードはアルモのショートソードを使ってコボルトと戦闘を行った、という訳か…」

「ええ。アコードの祖先は、もしかしたら私たちが探している、私の祖先の分家なのかも知れないわ…」

「!!それは、また随分と突拍子もない話だな…」

「でも、有り得ない話じゃないわ…」

「…そろそろ、俺たちも中に入らないか…」

「そうね…」

 “キン”

 鎧と鎧がこすれる音がする。

「中に入りましょう。お腹が空いたわ…」

「俺もだよ…」

 私とガイーラは、洞窟の中へと入っていった。

***

「自己紹介がまだだったな…俺はアコード、アコード・フォーレスタ」

「私はガイーラ様の従者でレイス。元盗賊さね」

「それにしても、アコード、お前の剣技はたいしたものだ。しかも、その剣には魔力が込められているはず…それは、並みの人間には扱えない代物のはずなのに…」

 俺は、レイスと共に先ほどまで捕らえられていた牢の洞窟の中へと引き返していた。

「この剣は、アルモからもらったものなんだ…この剣に魔力が込められているというのは、アルモからも聞いてはいるけど…やっぱり、魔法が禁忌とされるこの世界で、俺がこの剣を扱えるのは、特別なことなのか?」

「アルモから、大体のことは聞いている訳ね…あんたと戦った時には、つい口がすべってその剣を奪うなんて言っちゃったけど、仮にその剣を私が奪ったところで、私にそれを使うことはできないだろうさね。魔法を使うことと、魔力が込められた武器を扱うことは、全く別次元の話なのさ」

「そして、あんたは魔法武器の訓練を受けていないのに、そのショートソードを扱える…普通は有り得ないことなのさ」

「そうなのか…」

 もう一度、母さんに何回か見せてもらった家系図を思い出す。

 だが、俺の一族に魔法が使えたり、フォーレスタ以外の場所から嫁いできた人なんて…

 いや、待てよ…確か、俺のひいひいひい…何代か前に、森に迷い込んだ旅人がフォーレスタの住民になって、俺の一族と結婚した、なんて話があったような、無かったような…

「…どうした、アコード?」

 俺が家計図を思い出すのに夢中になっている間に何回か話しかけられたのだろうか?レイスが歩きながらこちらを向き、首を傾げている。

「いや、何でもない」

「まあ兎に角、今はその武器が使えることは、あまり気にしないことさね。世の中は、その武器を使えないことに嘆く人の方が、圧倒的に多いのだから…」

「?」

「いや、今のは忘れてくれ…おっとっと。危なく通り過ぎるところだったね…」

 数歩先を行くレイスが慌てて立ち止まると、壁をまさぐり始めた。

「何をしているんだ!?」

「隠し扉のスイッチを探しているのさ…って、あったあった!」

 レイスが壁にある岩を横にスライドさせると、“ゴゴゴゴゴゴ…”という音と共に、目の前の隠し扉が開いた。

「こんなところに扉があるなんて…」

「こう見えて、私は元盗賊。これ位の仕掛け、自分のアジトに用意しない訳ないさね」

「…ここは、レイスのアジトだったんだ…」

「そうさ。でも、ガイーラ様をここに招待するのは初めてだったかな…」

「なるほど。だからガイーラも俺とアルモを連れて外に出て、レイスと会うまで分からなかったのか…」

「そういうことさ。さぁ、中に入ろう。もう少しさ」

「ところで、レイスはどうして魔法を…」

「あぁ、そのことだけど…」

 俺とレイスは雑談をしながら、隠し扉の奥へと入っていった…