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剣世炸 novel site 〜月明りの少女〜

月明りの少女

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode4「王都陥落」 第3話 〜燃える城下町〜

 反対側の竹薮にいたのはただの兵卒だったようで、俺とアルモが駆けつけた時には、地面に骸が二体転がっている状態だった。

「ガイーラさん!!」

「アルモにアコード!無事だったか…」

「敵には逃げられてしまったが、な…」

「私とアコードの同時攻撃も効かなかったし」

「魔法剣の使い手の二人同時攻撃が効かなかった、だと…そいつの名は?」

「12将の一人で、パジラと名乗っていたわ」

「パジラ…聞いたことがある。12将の中で最も力が強く、グレートソードを棒切れのように扱う兵(つわもの)だと…」

「…主!」

「!!そうだったな、レイスよ。話は後だ!とにかく、フォーレストの城下町へ急ごう」

「ええ」

「分かった」

「城下町までは、あと少しです」

 俺たちはレイスを先頭に、再びフォーレストの城下町へと走り出した。

* * *

 フォーレストの城下町は、高台で見た時のそれよりも燦々たる有様になっていた。

 ワイギヤ軍が放ったであろう炎による火災は、街の隅々にまで延焼していた。まさに「火の海」と表現するに相応しい光景が、俺たちの眼下に広がっていた。

 その光景を目の当たりにし、思わずガイーラが膝をつく。

「ああ…フォーレストの街が…俺の生まれ故郷が燃えている…」

「!ガイーラは、フォーレスト出身だったのか…」

「…ああ、そうだ。生まれも育ちもフォーレスト。だから、アコード。君の村にも何回か訪れたことがある。フォーレスタも、いいところだった…」

「私が言える立場じゃないけど…ガイーラさん、しっかりして!!」

「アルモの言う通りです、主。主には、近衛隊長としての責務があるかと…」

「…そうだ…俺はフォーレスト国の近衛隊長だ…」

「アルモ…それにアコード。この火災から逃げ遅れた国民がいるはずだ。申し訳ないが、手分けして避難の誘導を手伝ってくれないか!?」

「もちろん!」

「喜んで!!」

「俺たち3人が国民の避難の誘導をしている間、レイスは情報収集をしてくれ。避難の誘導が終わり次第、国王陛下の安否を確認したい」

「かしこまりました」

 刹那、レイスがその場から姿を消す。

「アコードは、フォーレストは初めてよね…王城から今いる門までは一直線の道だから、ここから王城間をアコードにお願いするのはどうかしら?」

「それがいい。それじゃアルモは街の東側を頼む。私は西側を確認してこよう」

「了解した」

「了解!」

 俺は2人と別れ、王城方向へ真っ直ぐ走り出した。

“エーン…エーン…”

 王城までの道のりを半分程度過ぎた頃、俺は子どもの泣き声を耳にし、立ち止まった。

「(この辺りは、延焼を免れているようだな…逃げ遅れたか?)」

「おーい!どこに居るんだ!?」

「ここは危ないぞ!俺と一緒に逃げよう!」

「…そこに居るのは、きょーだんの人!?」

 大通りに面した商店の中から、俺の声を聞きつけた子どもの声がする。

 俺は迷わず、その商店に入った。

「いや、俺は教団の人間じゃない」

「…ほんとうだ!十字のローブを着ていない!!」

 今思えば、先刻対峙した教団十二将の一人も、十字の刺繍が施されたローブを着ていた。

「今、フォーレストの街のあちこちで火災が発生しているんだ…君はどうしてこんなところにいるんだい!?ご両親は?」

「お父さんとお母さんは、きょーだんの人に殺された…」

「何だって!?」

 この子の話によれば、教団軍がフォーレストを占領した際、フォーレスト国が教義に反していること、教義に反した国の街は燃やして浄化しなければいけないこと、浄化された土地に教団が新たな街を建造しそこに居住することを許すこと、などがフォーレスト国民に示されたようだ。

 だが、この子の両親をはじめとした少数の国民は、教団よりも国王を信じ、教団の提案を受け入れない姿勢を示した。

 そこで教団軍は、提案を受け入れなかった国民の一部を『見せしめ』のために処刑したようだ。

 この子の両親も、その時に教団軍に殺されてしまったようだ。

「…よく話してくれた。怖かっただろうに…」

「お父さんとお母さんが店を出て行く時、『店に隠れていろ』って言ったから、ずっと隠れていんだ…でも、しばらくして店の外からお父さんとお母さんの悲鳴が聞こえて…」

「そうだったのか…もう、この街に教団の兵隊は一人もいないよ…だから、一緒にここを離れよう。すぐそこまで、火が近づいているんだ…」

「…うん、分かった。お兄ちゃんの言う通りにする!」

 俺はその子の手を握り軽く頷くと、その子を抱き上げ中央大通りへと戻り、城門へと引き返した。

 暫くして、遠くに城門が見えてくると、そこには3つの人影があった。

「(…間違いない。アルモとガイーラ、それにレイスだ…)」

 いち早く俺の姿に気づいたアルモが、こちらを向き大きく手を振っている。

 俺が3人の元に到着すると、ガイーラが開口一番、質問を投げかけてきた。

「その子は?」

「両親を教団軍に殺され、両親が経営していた店に隠れていた子だ」

「このお兄ちゃんが、僕のことを見つけてくれたんだ!」

「そうか…よく頑張ったな!」

「うん!」

「…アルモとガイーラの向かった方向は?」

「残念ながら炎の延焼が激しく、あまり奥までは進めなかった…」

「私の方も同じだった。炎の勢いが激しすぎて…」

「そうか…」

 俺は、抱きかかえたままの子どもを、地面にそっと降ろす。

「兎も角、アコード。子どもを助けてくれたこと、感謝する」

「いや、俺は当たり前のことをしただけで…それに、俺の向かった方向にたまたまこの子がいただけで、アルモやガイーラが向かっていたら、俺と同じことをしたと思うし…」

「でも、アコードだからこの子のSOSに気づけたのかも知れないし…やっぱり凄いよ」

「ありがとう!お兄ちゃん!!」

「レイス」

「主、何なりと…」

「この子を、近くの安全な村まで送り届けてくれ。俺とアルモ、それにアコードは王城へ向かいたいと思う。2人も、それでいいか?」

「ええ」

「俺は構わない」

「かしこまりました」

「それじゃ、行こうか?」

「うん。お兄ちゃん、気をつけてね」

「ありがとう」

 そういうと、男の子はレイスと共に城下町を後にした。

「よし、私たちも王城へ向かおう」

 俺たち3人は、王城へ続く一直線の道を走り始めた。