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剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode4「王都陥落」 第7話 〜ガイーラの正体〜

「ガイーラ、だと…そう言えばそんな奴、居たっけか、なぁ!!」

 この世のものとは思えない程に歪んだガイーラの顔が、俺たち3人に言い放つ。

 アルモはその場に硬直し、レイスも自分の目を疑うような表情をしている。

「お、お前は何者だ!主を、ガイーラ様をどうしたんだ!!」

 レイスの問いかけに答えるように、目の前のガイーラもどきは、みるみるとその姿を竜人へと変えた。

「わが名はラジマ。ワイギヤ教軍12将の1人」

「ガイーラは、我と入れ替わった後、ワイギヤ教軍本部へ護送された。恐らくは、もう生きてはいまい」

「何だって!?」

「ガイーラ…さんが…死んだ……」

“カランカランカラン…”

 地面に落ちる剣の音が鳴り響く。

「ガイーラ…さん…」

 硬直していたアルモの手から、月明りの剣が抜け落ち、地を這る。

「…何もそんな悲しむ必要はあるまい。なぜなら、貴様らは我の手にかかり、間もなく彼の者の元へといくことになるんだからな!!」

「アルモ!危ない!!」

“キーン”

 呆然と立ち尽くすアルモの前に出た俺は、突然切りかかってきたラジマの攻撃をショートソードで受け流す。

「!!」

 ショートソードとラジマの青龍刀が交わり発生した金属音で我に返ったアルモは、月明りの剣を拾い上げると、目の前に構え全身から黄色いオーラを放ち出した。

 俺は、ラジマを青龍刀ごと強引に前方へ押しのけると、アルモの横に立つ。

 その横には、正気を取り戻したレイスの姿もある。

「アルモ!レイス!大丈夫か!?」

「アコード!ありがとう…何とか、正気を取り戻したわ!!」

「アコード、すまない…でも、もう大丈夫だ」

「アコードとやら…なかなかやるようだな。だが、我を楽しませるにはまだまだ…か。ええい、面倒だ。全員で一斉にかかってこい!!」

「アルモ!レイス!!行くぞ!!!」

「ええ!月光の導きのままに!!」

「この私が出遅れるとは…まあ、いい。行くぞ!!」

 俺からほんの少し遅れてアルモ、そしてレイスが、ラジマに対して一斉攻撃を仕掛ける。

“キーン”

 先陣を切ってラジマに切りかかった俺のショートソードの一撃は、予想通りラジマの青龍刀によって受け止められてしまう。

 だが、素早く俺の攻撃を弾き返そうと激しい力を出すラジマを尻目に、俺は弾き返されないよう全身全霊をかけて青龍刀から伝わってくる力を何とか相殺する。

 そして、後ろからアルモがラジマに切りかかるのを見計らって、ラジマの力を相殺していたショートソード越しにかけていた力を突然抜き、横に飛びのく。

「!!」

 ラジマは突然の出来事に対応できず、前のめりになった。

「今だ!アルモ!!」

 月明りの剣を横に構え突進してくるアルモ。

 その切っ先が、ラジマの横っ腹に向かい弧を描いた。

“キーン”

「…その作戦は悪くなかったが、少々力の抜き具合が甘かったようだな!」

 前のめりになりながらも、青龍刀を盾にして月明りの剣の攻撃を防ぐラジマ。

 ところが…

“ピキ…ピキピキ…バリーン”

 次の瞬間、ラジマの青龍刀は粉々に砕け散った。

「しまった!アルモだけでなく、男の方も魔法剣使いだったのか!!」

「もらったぁ!!」

 青龍刀が粉々になった瞬間、アルモは俺とは逆方向に飛び退いていた。アルモの後ろから突撃してくるレイスの進路には、武器を失い呆然と立ち尽くすラジマ以外何もなかった。

“ズシャ”

「よし!……!?」

 振り下ろしたロングソードに確かな手応えを感じたレイスは思わず叫んだものの、次の瞬間、その手応えは懐疑に変わった。

 レイスが捕らえたはずのラジマの体は、無数の光の粒と化し周囲に離散してしまったのだ。

「これは…シャドウザバンド…」

「ほほう。この魔法を知っているか。さすが、我が教団に仇なす存在、といったところか」

「シャドウザバンド…自らの身代わりを作り出し、相手からの攻撃を防ぐ高位防御魔法。まさか、目の前の敵に使われるとは…」

 相手への感心とも、自らの力への呆れとも取れる口調でレイスが話す。

 その間に、光の粒になり周囲に離散していたラジマの体が集合し、実体化した。

「折角面白くなってきたところだが、武器がなければお前達とは戦えぬな…パジラもそうしたようだが、この勝負、預けたぞ…」

 刹那、ラジマは瞬間移動の魔法を唱え、謁見の間から姿を消した。

「待ちなさい!ラジマ!!」

「…逃げられたようだ…」

「主…」

“カランカランカラン…”

 3人は図らずも自らの武器を同時に手放すと膝をつき、虚空を見つめることしかできなかった。