原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode5「帰郷」 第1話 〜Crescent Alliance〜
「うっうっ…ガイーラさんが、死んだなんて…うっうっ…ひっく…」
アルモの嗚咽が、謁見の間に響き渡る。
ガイーラに成り代わっていたラジマの武器の破壊に成功した俺たちは、何とかラジマをこの王宮から退却させることに成功した。
だが、ラジマからもたらされた本物のガイーラの消息は、アルモの心を乱しに乱していた。
「アルモ…」
アルモにかける言葉が見つからない俺は、言葉を詰まらせた。
「アコード…今は好きなだけ泣かせてやるのも、優しさというもんさね…」
俺の肩にそっと手を置き、虚空を見つめながらレイスが言う。
「レイス…お前は、辛くないのか?」
「辛くない…と言ったら嘘になるな…でも、私が泣いた所で、死んだ主様は喜ばない」
「そうか…」
急に辺りが静寂に包まれる。
アルモの嗚咽が止まったようだ。
アルモを見ると、ゆっくりと目を開き、そして口を開いた。
「ガイーラさん…いえ、ガイーラは、私の命の恩人なの」
突然、堰を切ったようにアルモが語りだす。
「命の、恩人?」
「そう…あれは、私がこの剣と共に旅に出た直後のことだった」
***
その日、習わしに従って成人の儀式を受けた私は、両親からとんでもないカミングアウトを受けた。
「お前は、私たちの子どもじゃないんだ…」
「……えっ!?」
唐突に、私の想定外の言葉を口にする父。
「信じられないかも知れないけど、本当のことなの」
すると、母の言葉に呼応するように、父は腰に携えた剣を抜きテーブルの上に置く。
「この剣のことは、知ってるな」
「父さんがずっと肌身離さず持ち歩いている剣、よね…」
「そうじゃない。この剣の云われを、小さい頃、母さんから聞いているはずだ…」
そう言いながら父が指す指の先を見ると、柄の部分に三日月の紋章が見える。
「…これは……母さんがよく話してくれた『月明りの剣』…おとぎ話だとばかり思っていたけど…しかも、その剣を父さんが持っていたなんて…」
「母さんのおとぎ話では、この剣の使い手はどう語られていた?」
「確か…『剣を持つ者、身体にその印を持つ。身体に刻まれしその印は剣を持つ者に力を与え、心正しい者の傷を癒し、邪悪なる者共を闇の彼方へと葬り去る力を得る。やがて、その者は同志たちと共に、世界を本来の姿を還したのだった』みたいな感じで…って…」
「父さん!!その者が、私だとでも言いたいの?」
「アルモ。その通りだ」
「嘘よ!私の身体に印なんて…」
すると母さんは、私の右肩に手をあてると、静かに魔法の詠唱を始める。
「母さん!何で母さんが魔法を…」
そして、母さんの手から放たれている光が一瞬強く光ると同時に、私の中から力強いエネルギーが沸き起こってくるのを感じた。
「アルモ。自分の身体を、鏡で見てみなさい」
父さんが大きめの手鏡を私に手渡す。
「これは…右肩に三日月のアザが…ついさっきまで、こんなアザはなかったのに…」
「私がお前とこの剣をここに連れ帰った時、母さんがお前の身体に保護魔法をかけたんだよ。来る日が来るまで、第三者にアザを見られないようにするため。そして、強大な力に、成長過程のアルモが飲み込まれないようにするために」
「そんな…」
「あなたは、私たちが思った以上に立派に育ってくれた。そして、この『月明りの剣』と魔法を扱うに相応しい年齢になった。私たちの元を旅立つ時が来たのよ…」
「私、父さんから一通りの剣技は習ったけど、魔法を扱う修行はやっていないわ…急に『魔法』扱うに相応しい年齢、と言われても…それに、魔法はこの世界の『禁忌』なんでしょ!?」
「魔法の扱い方は、この『月明りの剣』が教授し、導いてくれるだろう。心配はない。それに、魔法が『禁忌』とされているのは『ワイギヤ教』の教えによるからに他ならず、アルモ、お前はその『ワイギヤ教団』を敵に回すことになるんだ」
「ワイギヤ教団が、敵!?」
「ワイギヤ教は、この世界を支配している宗教といっても過言じゃない。そして、ワイギヤ教がその支配力を絶対のものにしているのが『魔力の独占』だ。人々の信仰心を利用し、魔法を『禁忌』とすることで、その力を独占し、世界を裏から支配している。世界中で発生する戦争も、あまつさえ自然発生的に起こる天変地異でさえも、教団が意図的に発生させているのでは?と、反教団派の間では噂になっている」
「父さんと母さんは、その『反教団派』って訳ね…」
「そう。私たち反教団派は『Crescent Alliance(CA)』と名乗り、世界のさまざまな場所に同志がいるわ。その『月明りの剣』の紋章と同じデザインの物品、主に装飾品を身につけているわ」
父と母が結婚指輪を私に見せる。
二人の指輪には、確かに月明りの剣と同じ紋章が刻まれている。
「CAには予言の巫女がいて、原則その巫女の予言に従い、父さんたちは行動をしている。私は今から17年前、巫女の予言に従い旅をし、お前と月明りの剣を見つけた。そして、今日までお前をわが子のように育ててきたんだ」
「アルモ。あなたは、私たちの『希望の星』。この世界をあるべき姿に戻すことのできる、唯一の希望なの。さぁ、目の前の月明りの剣を、手にとってみて…」
私は、恐る恐る目の前の剣に手を伸ばした…