原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode5「帰郷」 第2話 〜剣の記憶〜
「こっ…これは…」
目の前に置かれた月明りの剣に手を伸ばすと、次の瞬間、周囲を眩い光が包み、私の意識は遠退いていった…
***
気がつくと、そこは草原の只中だった。
「手が…透けて見える…」
手を伸ばし、遠くに見える巨木と手の甲を合わせてみる。
すると、ものの見事に手の甲を透過し、遠くの巨木が私の視界に飛び込んでくる。
「(私は一体…そうだ!月明りの剣に触れたら、辺りが光に包まれて…ということは、ここは月明りの剣が作り出した世界!?)」
刹那、目の前の情景が急激な変化を遂げ、あっという間に溶岩が滾る洞窟の中へと移動した。
そこには、月明りの剣を持った剣士と、それに対峙するように立つ、ローブを身に纏った魔道士の姿があった。
「我が友ワイギヤよ。天より授かりしその杖、如何様に使うつもりか!」
「我が友クレスよ。世界に魔力がある限り、紛争は終わらぬ。私は、お主の持つ剣と対を成すこの杖を使い、諸悪の根源を封印するつもりだ…」
ワイギヤと呼ばれたローブを来た魔道士が、両手で頭上に杖を振り上げると、次の瞬間、地面に突き刺した。
すると、ワイギヤとクレスの足元だけを残し、大地が地殻変動を起こし始めた。
「クレスよ。見ておれ。私はこの杖で世界を統べる。紛争のない、新たな世界を築き上げるのだ!!」
ワイギヤとクレスの足元も地殻変動で崩れ去ったが、その身体は淡い光に包まれ、大地にできた裂け目に向かって落下することはなかった。
「ワイギヤ!止めろ!!魔力を…この星の活動の源を、ずっとその杖に吸収し続けさせるつもりか!?」
「そのつもりだ」
「だが、ワイギヤ!天から授かりし力のある我等にも、寿命はあるのだぞ…」
「分かっている。私は、私の意思を受け継ぐ者たちを集め、我が杖を守らせようぞ…」
「そうか…では、私は生ある限り、お主とお主が作る世界を守って行くことにしよう。天より授かりし、この剣と共に…」
***
「ア…モ………ルモ………アルモ!しっかりしなさい!!」
「……!!ここは…私の…家!?」
「アルモ!気がついたんだな!!良かった…」
「あなたが『月明りの剣』に触れた瞬間、辺りが真っ白になって…私たちが気がついた時には、あなたは剣を片手で握り締めながら、気を失っていたのよ…」
「アルモ、何があった?」
「…夢…なのか…幻…なのか…、私の姿は透けていた。そして、溶岩の洞窟に突然移動したかと思うと…2人の人、そう、杖を持った『ワイギヤ』と、この剣を持った『クレス』が話をしていた…」
「『ワイギヤ』と『クレス』だって!?」
「ワイギヤは、持っていた杖を地面に突き刺すと、世界を統べて平和にすると言っていた…そして、剣を持ったクレスは、ワイギヤとワイギヤが作る世界を守ると…」
「その話、私たちCA(Crescent Alliance(三日月同盟))が保存している遺跡の壁画の物語とそっくりだ…」
「それじゃ…」
「恐らく、あなたが見たのは『剣の記憶』ね…」
「ワイギヤは、教団の始祖の人だろうけど…クレスは………教団の教えに逆らって追放された、あのクレスのこと!?」
「アルモ…それは教団が後の世で作り変えた偽者の歴史だ。クレスは、お前が剣の記憶で見た通り、ワイギヤと教団を守る剣士だったんだよ」
「私たちCAは、元々クレスと親交の厚かった者たちによって結成された秘密結社なの。だから、教団とは違う歴史が伝えられてきたわ」
「ワイギヤが死亡してから数年は、教団もワイギヤの教えを尊守した。争いごとを禁止し、杖に集められた魔力も星の海へと返していたの」
「ところが、星に魔力を返さなくても杖に貯められる魔力の勢いが変わらないことを教団が突き止めると、杖に集められた魔力を活用するための技術を開発した…」
「教団の神官に癒しの力を与えたり、軍団の兵士の身体強化を図ったり…」
「それで、教団の神官のみが魔法を使える存在、ということになっている訳か…」
「あなたに剣の記憶が見えたということは、やはりあなたは、予言の巫女の言う『クレスの生まれ変わり』即ち、この世界の最後の希望なの!」
「アルモ。この剣と共に旅立ち、真の世界の理を見てくるのだ!そして、私たちCAを導いて欲しい…」
「父さん…母さん…」
「アルモ、安心しなさい。私たちは、本当の両親じゃないけど、あなたを本当の子どもだと思っているわ。だから、いつでもここに戻ってきていいのよ」
「母さん…」
「母さんの言う通りだ。私も、正直アルモと離れるのは辛い…だが、アルモの旅立ちには世界の命運がかかっている。だから、私も涙を飲んで送り出すことにするよ。でも、無理だけは絶対にするな」
「父さん…」
父さんから剣の鞘を受け取ると、私は腰にそれを装備し、月明りの剣を納めた。
そして、自分の部屋に戻り、手早く身支度を済ませると、再び父さんと母さんの前に来た。
「父さん、それに母さん…いってきます!!」
「いってらっしゃい!」
「気をつけて行くんだぞ!」
こうして私は、生家を後にした。