原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode5「帰郷」 第3話 〜ガイーラとの出会い〜
父さんから、古の剣士が使っていた『月明りの剣』を譲り受け、己の運命を悟った私は、父さんと母さんの住む生家を後にした。
「(父さんは…)」
「(アルモ。この剣と共に旅立ち、真の世界の理を見てくるのだ!)」
「(と言っていた…とりあえず、いつも買い出しに行っていた町まで行ってみよう…)」
私は、町までの道を歩き出した。
…
どれほど歩いただろうか。
夕刻過ぎに終わった成人の儀式直後に両親から受けた告白。その後、剣に触れた次の瞬間に私の頭に流れ込んできた剣の記憶。そして旅立ち。
生家を勢いよく出てきたものの、成人の儀式が終わったあたりで東の空から登り始めた月は、私の頭上を通り過ぎ、既に西の空へと傾いていた。
「(…いつでも旅立てるようにって、母さんが荷物を用意してくれていたから野宿には困らないけど…こんなことなら、太陽が昇ってから出発するべきだったかな…)」
生家を勢いよく出て来てしまったことを後悔しながら、野宿の準備をし焚き火を起こした私は、荷物の中からチーズを取り出し軽く炙ると、地面にとろけ落ちる前にパンの上へ乗せ、口へと運ぶ。
「(…真の世界の理、か…そんな簡単に見つかるのかな…)」
簡単な夕食を済ませ寝袋に包まった私は、木々の隙間に見え隠れする満天の星空を眺めながら、そんなことを考えていた。
だが…
“ササササササ…”
「(!!!この足音は………オオカミの群れ!?)」
寝袋から瞬時に出た私は、腰に剣を装備すると、無駄と分かっていながらも焚き火を消し、耳を澄ます。
“タッタッタッ…”
すると、オオカミと思しき群れの足音の中に、微かだが人の足音が混じっていた。
“タッタッタッ…”
「(少しずつ、足音が大きくなっている…)」
漆黒の闇に染まる周囲に同化した私は、剣の柄に手を当てその場に構えると、少しずつ大きくなる人の足音を確かに耳で捉えながら、それの出方を伺う。
刹那…
“キンッ!”
私は、素早く月明りの剣を鞘から抜き去ると、背後に現れた足音の正体ののど元に切っ先を突き立てた。
「わっ!ストップ!ストップ!!俺は怪しい者じゃない!」
「私の両親が言っていたわ。『自分は怪しくない』と言い張る者ほど、怪しむべきだと…」
「だから、俺はその両親から頼まれて、あんたを追いかけて来たんだって!」
薄暗くて顔は良く見えないものの、その男はとっさにCrescent Allianceの紋章を、ほのかに輝く月明りの剣の刀身近くにかざした。
「それは…」
「信用してもらえたようだな…だが…」
“ササササササ…”
「しまった!あなたに気を取られて、オオカミの群れが近づいているのを忘れていたわ…」
“キンッ!”
すると、鞘から抜き去ったロングソードを目の前に構えたその男は、私と互いに背中を預ける形で立った。
「おっと!俺もまだ死にたくはないんでね…俺の疑いも晴れたことだし、ここは共闘しようじゃないか!アルモさん!!」
「…あなた、名前は!?」
「おっと、これは失礼。俺はガイーラ。表向きはフォーレスト王国の近衛隊長をやっているが、裏の顔はCrescent Allianceの遊撃部隊員さ」
「CAにも、部隊があるのね…」
「そんなことよりも、今は目の前のオオカミ共をどうにかするのが先決だ。話は、こいつらを始末してからにしよう!」
「そうね。私の背中は預けたわ!」
“タッタッタッ…ズシャ!”
“キャインキャイン…”
***
「こうして私とガイーラは出会い、オオカミの群れを壊滅させ、私は無事にCrescent Allianceの本部に迎え入れられたわ。ただ、本部といっても、ただの一軒家だったけど、ね」
「なるほどな…それで「命の恩人」な訳か…」
「そのガイーラが、もうこの世の人じゃなかっただなんて…ううっ、ヒック…」
昔語りが終わり、再び感極まったのだろう。アルモは再び嗚咽を漏らし始めた。
「レイスは、ガイーラがCAのメンバーだったことは知っていたんだよな…」
「まぁ、そうだな。かくいう私も、だ…」
レイスがペンダントに装飾されたCAの紋章を見せる。
「そうだったのか…」
「ガイーラ様は、この国の近衛隊長を任される程、腕の立つお人だ。敵将は『今頃は死んでいる』などとほざいていたが、私はいまだにその言葉信じられぬ。主はきっと、どこかに落ち延びているに違いない…」
レイスの言葉に、アルモの嗚咽が止まる。
「…そうよ、ね…ガイーラさんが、死ぬわけないわよ、ね…」
レイスの言葉に信ぴょう性など微塵もない。
だが、その場の3人を奮い立たせるには十分すぎる言葉でもあった。
「…とりあえず、フォーレスト城を出よう。城の外の様子も気になる…」
「…それも、そうね。こんな辛気臭い場所でウダウダしているのを、ガイーラだったら許さないだろうし…」
「アルモの言う通りだ。私も、こんなところでメソメソなどしていられない!」
「よし!それじゃ城の外へ!」
こうして俺たち3人は、ガイーラに扮していたワイギヤ教軍12将軍の1人ラジマの撃退に成功した謁見の間を後にし、フォーレスト城を出たのだった。
第4話へ続く