原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode5「帰郷」 第5話 〜別離〜
不思議と、私を拘束する男から一切の悪意は感じ取れなかった。
当初、視覚を奪われていた私だったが、『俺に何もかも任せるんだ』という言葉を私に信じ込ませたいのだろう、右手で塞がれていた目は開放され、突然闇に落ちてしまった私の視界は徐々に回復していった。
「(私を拘束している、この男は一体…)」
『任せろ』と言った男に興味を持った私は、顔を斜め後ろに傾けた。
「…貴様は一体?…」
「説明は後だ!ここを動くなよ!!」
刹那、その男は瞬時に私を解放し、追手が迫る方角へと飛び出した。
そして私の体は、安堵からかその場に崩れ落ちた。
“ウォーーリャーー”
“キン…カン…キンキンキン…”
しばらくして、飛び出していった男のものと思われる雄たけびが辺りに響き渡ったかと思うと、金属と金属が激しくぶつかり合う音が聞こえ始めた。
「…あの男が、戦っているのか?」
その事実を確認しようと立ち上がろうとしたものの、身体がいうことを利かず、再びその場に崩れ落ちる。
「(…緊張の糸が切れてしまったんだな…私としたことが…)」
“カン…カン…キン…キンキン…”
互いを罵る怒号と共に、金属のぶつかり合う音は激しくなっていく。
“シーン…”
数分後、金属音が鳴りやんだかと思うと、辺りは静寂に包まれ、何者かがこちらに近づく足音だけが、『コツ…コツ』と私の耳を貫いていた。
「(あの男が勝ったなら、私はきっと助かるに違いない。でも、負けていたなら…)」
身の危険を瞬時に感じ取った私は、鞘に収めていた短刀を抜き去ると、目の前に構える。
そして…
「おい。無事か!!って!!!」
私は、その足音の主の姿が見えた瞬間、全力を振り絞り立ち上がると、足音の主ののど元に短刀の切っ先を当てた。
「助けてやったというのに、随分な歓迎の仕方だな…」
苦笑いをする足音の主。
それは、先ほど私を今いる建物の物陰に引っ張り、私を助けた男だった。
***
「…で、その男がガイーラで、命を助けられたお礼に、ガイーラと主従の関係を結んだと…」
「ガイーラ様は、私と主従の関係を結んではおられない。私が勝手にガイーラ様を『主』と呼んでいるだけだ」
「ガイーラ様はその後、手傷を負った私を宿まで連れていき、手当てをして下さった。そして、私の傷がさほど浅くないことを知ると、私をしばらくその宿で養生させる手続きをし、私に黙ってその場を去ろうとしたのだ」
「あの屋敷には、フォーレストの近衛隊長としての任で侵入し、任務を終え城に戻る途中、私があの屋敷から命からがら飛び出してきたのをたまたま発見し助けたそうだったが、そんなどこの馬の骨とも分からない盗賊の女に、そこまでの情けをかけられたガイーラ様に、私はお仕えしたいと思ったんだ」
「それで、ガイーラの従者となったって訳か…」
「まぁ、従者といっても私の独りよがりなのかも知れないが、な」
「(…レイスの誤解が解かれた時、ガイーラはレイスのことを『懐刀』と称していた。レイスは『主従関係』と言っているが、ガイーラはもっと違う関係だと思っていたに違いない…)」
“コツコツコツコツ……トントン…”
レイスとガイーラの出会いの話が一段落し、俺がそんなことを思っていると、階段を上がる足音の少し後に、俺とレイスの居る部屋をノックする音が聞こえてきた。
「アコード、それにレイス。ここに居るのよね?入るわよ」
“ギィ…”
部屋のドアを開け、エプロン姿となったアルモが部屋に入ってくる。
「…2人で、一体何を話していたの?」
「いや、私と主との話をしていたんだ…」
「えっ!?ガイーラとレイスの?私も聞きたいわ!!」
「ところでアルモ?ここに君が来たってことは…」
「ええ!夕食が出来たわよ。1階の食堂に用意してあるから、一緒に行きましょう」
そういうとアルモは俺とレイスを部屋から連れ出し、1階の食堂へと向かった。
***
そして翌日…
「…本当に一人で行くつもり!?」
「ああ。私は『自分の信じる道』を、ひたすら突き進んで行くだけだ!」
「アルモは、これからどうするつもりなんだ?」
「私は、一度父さんと母さんの待つ故郷に戻って、一度情報を整理してみたいと思うわ。ガイーラさんを追うにも、今の私には情報が無さすぎるし…」
「俺は、アルモについていく。フォーレスタ村を出るときに、そう決めたから…」
「アコード…ありがとう!!」
「…それじゃ、ここでお別れだ」
「お互いに『CA』のメンバーとして、頑張っていきましょう!」
「そうだな!では、さらばだ!!」
刹那、突風が辺りを包むと、次の瞬間にはレイスの姿は跡形もなく消えていた。
「…それじゃ、私たちも行きましょうか!」
「ああ、そうだな!!」
こうして俺とアルモは、フォーレスタの城下町を後にした。
第6話へ続く