原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode6「ワイギヤの血筋」 第11話 〜ワイギヤの子孫〜
サリットが指差した先には、魔導士姿ではない、フォーレスタ村村長の姿の母が横たわっていた。
「……母さーーーん!!!」
俺は思わず叫ぶと、ショートソードをその場に投げ捨て、横たわる母の元へと駆け寄った。
「母さん!!」
「……そんな大きな声を出さなくても、私は大丈夫だよ、アコード…」
いつも気丈に振る舞うのは村長だからか、はたまた性格からなのか、それは家族の俺にも分からなかったが、目の前に横たわる母は、それでも尚俺に対して気丈に振る舞った。
「本当に大丈夫なのか!?こんなにボロボロだというのに…」
母の纏っている服には複数個所に渡り傷ができ、手や足にも切り傷が刻まれていた。
「…私も年をとったんだねぇ。この程度の魔法でボロボロになってしまうなんて…」
「アコード…肩を貸してくれるかい?」
そう言うと、母は俺の肩に手を当て、その場に立った。
「…本当に大丈夫なのか?母さん…」
「大丈夫ですか?村長」
「何なら、俺が村まで担いでいきますよ!」
後から来たシューとサリットも、母に気遣いの言葉をかける。
「3人共…私は本当に大丈夫さ。ちょっと魔法の使い過ぎで、疲れてしまっただけさ」
「…ならいいんだけど…」
「それよりも、アコード。このまま私を、奥の石碑まで連れて行ってくれるかい?」
「分かったよ、母さん」
「…俺の肩も使って下さい、村長!」
「ありがとう!シュー…」
シューの肩も使い、母と俺たち3人は石碑の元へと到着した。
「二人とも、ありがとう。だいぶ体力も回復した。もう本当に一人で大丈夫だよ」
そう言い二人の肩から両腕を離した母は、いつもの姿勢で目の前に立っていた。
「さて、アコード。お前はフォーレスタ村に伝わる試練に打ち勝った。本来なら、その時点で私の役目は終わり、先祖代々引き継がれている力をお前が継承して、私はこの世を去るのが習わしだが、そうはならなかった」
「…本当なら、俺が母さんに勝った時点で、母さんは死んでいたはず、ということか?」
「そういうことだ。だが、今私は生きている」
「どうして、そうなったのですか?いや…私たちとしては、村長にいつまでも生きていて欲しいと思っているのですが…」
「…これを見るがいい」
そう言って母が指差した先にあったのは、大きな石碑に刻まれた文字だった。
石碑は不思議な光に包まれていて、文字の一つ一つが浮かび上がって見える。
「この石碑は、村長の試練に打ち勝ち、新しい村長となった者が読むことのできるものだ。その証拠に、シューとサリットは、この文字が読めないはずだ」
「…確かに、見たことのない文字です」
「俺にも、サッパリ分かりません…」
「アコード…この文字、お前なら読めるであろう?」
「…確かに、見たことのない文字だけど、文字に目を走らせると、頭の中にその内容が入ってくる!」
「アコード…シューとサリットはこの文字が読めないから、読んであげなさい…」
「…分かったよ母さん。……えーっと…………」
“私はフォーレスタ。私は私の子孫のため、この石碑を残す。私の子孫よ。この石碑の内容を、心して読み、そして胸に刻むのだ。
私は、ワイギヤ教団の始祖、ワイギヤの息子だ。つまり、この石碑を読む者は、ワイギヤの子孫ということになる”
「アコードが…フォーレスタ村の村長の家系が、ワイギヤ教団の始祖の子孫だったなんて…」
「…だから、村長とお前は魔法が使えたって訳か…」
「…どうやらそうらしい。続きを読むぞ」
“私の父は、天より授かりし杖を使い、この世界より生み出される無限の魔力を杖へと集め、星の海へと返していた。
当時、魔力の占有権を巡って多くの国々が戦争をし、世界は荒廃していた。父は、魔力を杖に封じることで、争いの元となった魔力を世界から絶とうとしたのだ。”
「大昔、アコードのご先祖様の時代は、魔法の力を全ての人が享受することができた、という訳ね…」
「だが、欲深い人間の性(さが)故に、人同士の争いが絶えなかった、という訳さ」
「だから、俺と母さんのご先祖様は、杖に魔力を封じ、それを星の海へと返していたのか…」
「アコード…続きを…」
“私の父に賛同した多くの人々が父を手伝い、そして父を始祖とする教団を作り、杖に集められた魔力の管理が始まった。
ところが、父の死後、その魔力を利用する技術が教団内で確立し、教団の者だけが魔力の行使を行えるようになっていった。”
「…いつの世も、余計なことをする奴って、必ずいるのね…」
「結局、アコードの先祖の思惑とは裏腹に、各国が獲得しようとしていた利権を教団が占有し、利用することになったんだな」
“父の遺志を継ぎ、教団のリーダーとなった私は、魔力の行使は父の遺志に反すると主張し、魔力の行使が行える技術そのものを封印しようと試みた。
だが、その矢先に教団内でクーデターが発生し、私は光の騎士クレスに守られながら、このフォーレスタの地まで落ち延びた。
光の騎士クレスは、父ワイギヤと共に天より光り輝く剣を賜った騎士で、命ある限り父と父の遺志を受け継いだ私を守ることを誓っていた、偉大な人物だ。”
「光り輝く剣の騎士、か…あれ?俺たち、そんな人物と会ったことがあるような気が…」
「…アルモよ!アルモだわ!!」
「サリット!?」
「アルモが持っていた剣、確かほのかな光を放っていなかった?」
「…確かにそうだけど…」
「サリットの言う通りだ、アコード!あの娘は…アルモは、恐らくクレスの子孫。アコードとは、出会うべくして出会ったのだ」
「…だから、母さんはあの時、俺にけしかけるようなことを言ったのか…」
“クレスによって守られたこの命を、ワイギヤの遺志をいつか果たせるよう、子どもだけは作っておくことにした。そして、この石碑に、この洞窟に私の力を継承するための仕掛けを施した。
だが、私の力はあまりにも強大故、恐らく継承を行った者はその力に耐えられず、命を落とすことになるだろう。継承を行う際は、継承される者が成人していることが望ましいだろう。
そして、教団が魔力の管理をあらぬ方向へと導こうとしたその時、世界の魔力バランスの崩壊を察知した私の継承システムがこの原則を崩すと同時に、クレスの子孫もまた、我が子孫の前に姿を現すであろう”
「…母さんも、その…魔法の力が残っているのか?」
「そうだね。お前の父さんが病に伏した時、お前はまだこの力を継承できる状況ではなかった」
「…父さんが死んだ時、俺はまだ子どもだったからな…」
「だから、病魔によって天国に行く間際、父さんは私にその力を継承させ、息を引き取った」
「そして、先刻行った継承の儀式により、私の命も尽きるはずだった。だが、そうはならず、私自身にも、まだ魔力が残っている」
「通常、フォーレスタ家の人間でも、継承を行わなければ魔法は使えない。だが、アコード。お前は…」
「入口のガーディアンとの闘いや、さっきの母さんとの闘いで、魔法が使えた…」
「そうだ。つまり、継承を行うまでもなく、お前は魔法の力に目覚めた。だから、私がご先祖様から継承した力を全て受け取る必要がなかった故に、私は命を落とさなかった、ということだ」
“私の子孫よ。恐らく教団は私の時代よりも強大な権力を手にしていることだろう。だが、クレスの子孫と力を合わせて、教団の野望を阻止するのだ。それができるのは、私の子孫であるお前達だけだ。
どうか、私の父の遺志を、私の願いを果たして欲しい。
未来は、お前たちのものなのだから…
フォーレスタ”
俺が石碑の文字を最後まで読み終えた瞬間、石碑を包んでいた淡い光は消え失せた。
「…何だか壮大な話になってきたけど、つまりは、魔力を占有している教団を倒さなきゃいけない、ということだよな?」
「シューったら…でも、端的にはそういうことよね…」
「今の教団には軍隊もあり、そこには特殊な能力を備えた十二将が控えていると聞く」
「確かに、その将軍のうち、二人とアルモと共に戦った。どちらも逃してしまったが、アルモが一緒じゃなかったら、俺は今頃…」
「そうか。お前はアルモとの旅の中で、そんなことまで経験してきたのか…」
「…とりあえず、アコード、それに村長。村に戻りませんか?村長が負った傷の手当も必要でしょうし」
「そうだな。それじゃ、私の魔法で家まで行くとするかね」
「母さん!もうそんなに魔力が回復しているのか?」
「…ここは私たちの祖先が作り出した空間だ。継承の試練を行っている時以外は、フォーレスタ様の…ワイギヤ様の子孫である私たちの魔力が回復するように作られている」
「…そうか…どうりで、試練が終わった途端に、この洞窟の空気が心地よく感じるはずだ」
「それじゃ行くよ!」
”ピカッ…ヒュゥゥゥン…”
いつの間にか杖を手にしていた母がそれを持つ右手を頭上に高く掲げると、俺たち4人眩い光に包まれ、光が収まった次の瞬間には実家のリビングに移動していたのだった。
第12話 に続く