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剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode6「ワイギヤの血筋」 第12話 〜再会〜

「CAに伝わる正史には、ワイギヤの子は魔法の力を星の海に返さず利用することにした教団から疎まれ、そして親であるワイギヤの遺志を継いだ子もまた、教団を敵視していたと伝えられている」

「ワイギヤの死後、ワイギヤの子フォーレスタは教団を去り、森の奥底へと逃れると同時に、姓と名を逆転させ教団からの執拗な追撃を逃れたそうよ」

「つまり…」

「アルモ…お前は騎士クレスの末裔で、その少年はワイギヤの末裔、ということだ」

「アコードが…教団の始祖の末裔!?」

 クビラとの闘いで傷ついた私の両親は、体を癒やし、身を潜めるため、それまで物置として使っていた小屋を簡易的な生活ができるスペースに改造すると共に、教団の者には見破ることのできない結界を張って、身の安全を確保していた。

 そこに、情報を整理するため戻った私は、壮絶なクビラと両親との闘いを知ると共に、アコードが教団の始祖ワイギヤの子孫であることを知ったのだった。

「ということは、クレスの子孫である私の使命は、ワイギヤの子孫であるアコードを守ること?」

「平たく言えば、そういうことになりそうだけど…」

「アルモが、その少年をここに連れて来ていない、ということは…」

「ええ。アコードも自分の出生を知るため、実家のあるフォーレスタ村に帰っているはずよ」

「ならば、その子も今頃自分の出生を知り、驚いているはずね」

「…驚いているだけならいいのだが、な…」

「父さん、どういうこと?」

「あなた?」

 父の顔に影が落ちる。

「私は、その少年がどのような人物か知らない。だからこんなことが言えるのかも知れないが、その少年が教団の始祖の生まれ変わりと知り、CAを裏切るようなことにはならないのだろうか?と考えてしまってね…」

「…アコードが、CAの紋章を受け取った時、私に言ったわ。『できることなら、私の力になりたい』って…だから、例え教団の始祖の末裔だと知っても、アコードはCAの…いや、私の力になってくれるわ!」

「…その子のことを、好いているのね、アルモ」

 いつの間にか近くに来ていた母が、私の黄色い髪の毛を撫でる。

「えっ!いや……その………そういう訳じゃ………」

「…アルモが嘘をつけない性格なのは、今も昔も変わらないな、母さん!」

「ええ♪」

「もう!二人とも!!」

 私は恥ずかしさのあまり、頬を赤くそめ、思わずうつむいてしまった。

「アルモ。顔を上げて」

 母の言葉に、私は素直に従い、うつむかせた顔を上にあげる。

 すると母は、私の額に手をあて、短い詠唱呪文を唱えた。

「(…何だろう…頭の中に、言葉が浮かび上がってくる!)」

 刹那、母の手から眩い光が放たれたかと思うと、一瞬にして私の体へと吸い込まれていった。

「…母さん?」

「これであなたは、新しい魔法を使えるようになったはずよ。私が詠唱呪文を唱えている間、頭の中に、言葉が浮かび上がってこなかったかしら?」

「浮かんできたわ…この魔法は…瞬間移動(テレポーテーション)!」

「私はこの魔法を修得するのにかなりの時間を要したけど…アルモ!あなたはその子との旅路で、私たちには想像もつかないような経験をしてきたのね」

「…だから、母さんが修得している魔法の伝承を受けることができたんだな」

「魔法の伝承…魔法って、修得している人間から伝承させることも可能なのね!」

「ああ。だが、伝承される相手の力量が問われる。力量に達していない者に伝承させようとすると、その者の体が拒否反応を示して、場合によっては死に至る…」

「だから、誰にでもこの技術で魔法を伝承させる訳にはいかないのよ…」

「母さん!ありがとう!!」

「あなたが修得した魔法は、あなたが言ったことのある場所になら、瞬時に移動することのできる魔法よ。私たちのことは大丈夫だから、早くその子の元へ行ってあげなさい」

「その少年と合流したら、CA本部へ行くといい。ワイギヤ教軍との今後の戦いについて、CAとしても決めなければならないからな…」

「分かったわ。父さんと母さんも、十分に気を付けてね」

 そう言うと、母から伝承された瞬間移動の魔法を発動させた私は、その場から一瞬にして消え去り、次の瞬間にはフォーレスタ村の入口へと到着していた。


***


”ピカッ…ヒュゥゥゥン…”

 いつの間にか杖を手にしていた母がそれを持つ右手を頭上に高く掲げると、俺たち4人は眩い光に包まれ、光が収まった次の瞬間には実家のリビングに移動していた。

「ふう…どうにか成功したみたいだねぇ」

 そういうと母さんは、いつも座っている椅子にどっかりと腰かけた。

 それを見届けた俺たち3人も、思い思いの場所に腰かける。

「…さて、今までの状況を整理すると…」

「俺は、教団の始祖ワイギヤの子孫で、魔法が使える」

「本来、フォーレスタの村長は命懸けでその力を子へと伝承する」

「その伝承において、伝承する側、つまり親が死亡しない時は、世界の魔法バランスが崩れていて、重大な危機が迫っている時」

「ワイギヤの子フォーレスタは、光の騎士クレスによって守られ、この村まで落ち延びた」

「アルモは、光の騎士クレスの子孫で、俺とアルモの力で教団がしようとしていることを阻止しなければならない」

「はいアコード!よく出来ました!」

「サリットの言う通り、アコードは光の騎士クレスの子孫であるアルモと共に、教団に立ち向かわなければならない」

「そこで、だ。フォーレスタ家の…いや、世界の秘密を知ってしまった以上、シューとサリットも、アコードとアルモの旅に同行し、二人が歩む道を見届けて欲しいと、私は思っている」

「村長!」

「…それは、私とシューにとって、願ったり叶ったりです!」

「アコードも、それでいいね?」

「…俺とアルモの旅は、きっと危険なものになるに違いない。そんなことに、二人を巻き込みたくはなかったんだが…」

「さっきも言ったでしょ?『頼ってくれて良いんだよ』って!!」

「そうだ!俺とサリットができることは少ないかも知れないけど、役に立つことは、お前が一番知っているだろう?アコード!」

「…分かった。頼りにしているよ!シュー!それにサリット!」

「さて、それじゃ今日はゆっくり休んで、明日旅立ちの準備をするとしよう!」

「…その前に、お客さんが来たようだ」

“トントントン…”

 玄関から、気の扉をノックする音が聞こえる。

「…誰かしら?こんな時間に…」

「…もしや…教団の者なのか?」

「いや…この気配は、恐らく………アコード。敵でなさそうだから、出て差し上げて」

「分かったよ、母さん」

“トントントン”

“ガチャ…ギィ…”

 俺が扉を開けると、そこには…

「!!アコード!!!やっぱりアコードだ!!!!」

 俺は実家の玄関先で、ドアの向こうでノックしていた、金色の髪にほのかに光る剣を携えた少女に抱きつかれたのだった。


Episode7 に続く