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剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode6「ワイギヤの血筋」 第5話 〜帰郷前夜〜

 アコード達が第一の試練を乗り越えたその頃、私は生家に程近い、サプコッタ大陸のナヤラーンの宿屋にいた。

「アルモじゃないか!久しぶりだなぁ。いつ戻ったんだい?」

「おじさん!つい今さっきよ。部屋、空いてるかしら?」

「ああ空いてるよ。2階の角部屋を使ってくれ!」

「ありがとう!!」

 宿屋の主人から鍵を受け取り指定された部屋に入ると、私は剣と鎧を部屋に置き、衣服をベッドの上に全て脱ぎ捨てると、部屋毎に備え付けられている風呂に浸かる。

“ポチャン…”

「………」

 思えば、私が生家を出発からさまざまなことが風のように過ぎ去っていった。

 ガイーラと合流するためにフォーレスト城に向かう途中、合流まで時間があったことと妙な気配を感じて立ち寄ったフォーレスタ村で出会い、共に旅することになったアコードとの出会い。

 ワイギヤ教軍に間違われ捕らわれるも、その後和解をしパーティに加わったレイスとの出会い。

 ワイギヤ教軍の将軍と入れ替わってしまっていたガイーラ。

 そして、アコードの覚醒…

 この数か月の出来事は、生家を出発してから数年の時を経たと思わせるには十分過ぎる程濃く、そして私の今後の運命を左右させるものであったと感じるのと同時に、この先、生家に戻る私にどのような運命が待ち受けているのか…。それを考えずにはいられないのだった。

“コンコン”

 部屋のドアをノックする音が聞こえる。

「ごめんなさい。今お風呂に入っているの」

「アルモちゃん。ごめんごめん。夕飯が出来たから、降りてきてくれるかい?」

「おじさん!ありがとう。もうすぐ上がるから、準備して先に食べてて」

「あいよ〜」

“コツコツコツコツ”

 宿屋の主人の、遠ざかる足音が聞こえる。

 考え事をしながらお風呂に入ったためか、窓の外に目をやると、いつの間にか太陽が西の空に沈みかかっている。

「(考えても仕方ない。早く上がって夕飯にありつこう!!)」

 気持ちを切り替えた私は風呂から上がると、宿屋の主人が用意してくれていた衣服に着替え、1階にある食堂へと向かった。

***

 夕食後部屋に戻った私は、窓から見える満天の星空と、そこに浮かぶ満月を眺めていた。

「(夜風が気持ちいいわね…)」

「(…そう言えば、久々の『一人旅』なのね…何だか、ちょっと…)」

「(いやいやいやいや…今までだってガイーラと一緒じゃない時は一人旅だったじゃない。私ったら、何感傷に浸っているのよ…)」

 次の瞬間、私の脳裏にアコードの笑顔が思い出される。

「(…確かにアコードと出会ってからは一緒にいることが多かったけど…まさか、ね…)」

 月明りの剣を父から譲り受け、生家を後にした直後に助けられたガイーラと私が恋仲になるのは、さほど難しいことではなかった。

 CAの本部に私が迎えられてから暫くの間は常にガイーラと一緒だったし、年下の私をガイーラは一人の女性として見てくれたからだ。

 私がCAの一員として独り立ちしてからも、互いに連絡を取り合い、なるべく同じ時を過ごすようにしていた私は、クレスの生まれ変わりである私の使命、即ち世界をあるべき姿に戻すという使命を果たした暁には、結婚して幸せな家庭を築くことをガイーラと約束していた。

 だが、フォーレスト城で落ち合う前に、ガイーラはワイギヤ教軍に捕まり十二将の一人ラジマと入れ替わってしまっていた。

 戦いに勝利しラジマを撤退させた私たちだったが、ガイーラの行方は結局分からず終いだった。

 それでも、ガイーラの生存を強く信じた従者レイスはそのままガイーラを捜索することを決め、私はガイーラの行方に関する情報の整理とアコードの可能性を探るため、生家に戻る途中のはずなのだが…

「私は『自分の信じる道』を、ひたすら突き進んで行くだけだ!」

 レイスが別れ際に私とアコードに残した、ガイーラの生存を力強く信じ捜索を続ける決意の言葉が思い出される。

「(…やっぱりレイスはガイーラのことを…それに引き換え私は…)」

「(私の心の中に、もうガイーラへの気持ちは残っていないとでも言うの…)」

「(…兎に角、父さんと母さんの元に戻って、一度情報を整理してみよう。自分の気持ちを確かめるのは、それからでも遅くない訳だし…)」

“シュン…ドスッ”

 ベッドに戻ろうとした私の頬をかすめ、部屋の柱の矢が刺さる。

 矢を引き抜き、先端の金属部分を調べると、案の定CAの紋章が刻まれていて、本体をクルクルと回すと矢は真っ二つとなり、中から手紙が出てきた。

“モリ モエタシ タダチニ ムカウベシ”

「森が燃えている………まさか!!父さんと母さんに何か???」

 私は急いで身支度を済ませると、宿賃をカウンターに置き、宿屋を後にした。


 第6話 に続く