原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode6「ワイギヤの血筋」 第7話 〜メルクーリュスのクビラ〜
“ザザッ”
小屋の前に到着した私は馬から飛び降りると、小屋の扉の前に立ち、声を掛けようとする。
“バタンッ”
“キンッ”
突然の殺気に自然と動いた体は、月明りの剣を鞘から抜き去り、小屋から出てきた人物の一撃を寸でのところで防いだ。
「誰だ!!」
「……父さん…やっぱり父さんだ…よくぞ無事で…」
「…アルモ…アルモなのか!!」
“ドサッ”
「アルモ…なのね!!」
互いの存在を確認した私と父はその場で得物を落とし、小屋から出てきた母と共に泣き顔になりながら、互いを抱きしめ合った。
「母さんも、よくぞ無事で………」
「それにしても、私の渾身の一撃を受け流すとは…もとい、いくら非常時とはいえ我が最愛の娘の気配を察知できないとは…私も年をとったものだな」
「父さんが年をとったかどうかは置いといて…火を消したウンディーネの魔法を使ったのは、アルモなのね?」
「そうよ。つい最近会得した魔法だったから、うまくいく自信はなかったのだけど…」
「それでも、あなたはやり遂げた…」
「アルモ…随分と成長したな」
父さんの暖かな手の温もりが、後頭部から私に伝わってくる。
「ところで、一体何があったの?森の延焼は抑えられたけど、私たちの家はもう…」
「…ワイギヤ教軍十二将の一人が、襲ってきたのよ!」
「…今、私の記憶をアルモに見せよう」
そう言うと父は、両腕で私を包み込み、両手を私の頭に添えた…
***
“フォン…シュン…”
魔法で1人の男が、まだ焼け落ちる前の、私の記憶に焼き付いた見覚えのある生家の前に現れた。
長身のすらっとした体形で、セミロング位の長さの銀髪が風で靡いている。
そして、ところどころに銀色の玉が描かれた、見たこともないマントを羽織っているようだ。
気のせいだろうか。その銀色の玉が、銀髪と共に靡いているマントの中を、まるで生き物のように動き回っているように見えた。
「三日月同盟の指名手配犯、ソレイユにリュンヌよ…大人しく表に出ろ!!!」
銀髪の男が、森に轟く大声で、父と母に自宅から出るよう促す。
“バタン”
“スタスタスタスタ…”
「その出で立ちは…教団の者か!!」
「ソレイユ…」
父の腕に寄り添う母。
「…リュンヌ…大丈夫だ。君のことは必ず俺が守ってみせる!」
「俺は、ワイギヤ教軍十二将が1人、クビラだ」
「クビラ…メルクーリュスのクビラか!?」
「我が名はどうでもよい。ソレイユにリュンヌ!教団への反逆罪で異端審問を行う!大人しく逮捕されよ!」
“ピカッ!”
刹那、父と母を神々しい光と風が包み込み、次の瞬間にはその姿を剣士と魔法使いへと変えた。2人の姿が確認できる程に光は収まったものの、どこからか吹き続けている風が、父のマントと母のローブをヒラヒラと靡かせている。
「リュンヌ…行けるな?」
「ええ、ソレイユ!」
父は、鞘から魔法がかかった長剣グラディウスを抜き去ると目の前に構え、母は月の魔力が最も強くなる新月の木から作られた樫の杖を構え、魔法の詠唱に入る。
“キン…”
その姿を確認したクビラも、大剣クレイモアを鞘から抜き去り、目の前に構えた。
「どうやら大人しく捕まってはくれぬようだな…いいだろう!まとめてかかって来い!!」
「もとよりそのつもりだ!!!」
“ザッ”
父の利き足が地面を蹴り、クビラに突撃した。
「グラディウス如きで、我がクレイモアに勝てるとでも思うてか!!」
「さて、それはどうかな!!…リュンヌ!!!」
“ファァァァァ”
母の魔法の詠唱に応え、樫の杖の先端がみるみるうちに光り輝いた。
「……今こそ武器に宿りてその力を示せ!!」
「ホーリネスアルマ!!!」
母が魔法を唱えた瞬間、杖の先端から光が離散したかと思うと、あっという間に突撃する父のグラディウスに全て吸収され、刀身が眩い程の光に包まれた。
「さぁクビラよ!我とリュンヌの一撃を食らうがいい!!!」
「そんな一撃、このクレイモアで受け流してくれる!!」
“ブゥン”
“ギン…”
“ピキッ…”
「!!??」
“ザザッ”
父の攻撃をクレイモアで受け止めたクビラだったが、いち早く自らの得物の異常を察知し、数歩後ろへ飛び退いた。
「…魔法で鍛え上げたこのクレイモアにヒビを入れるとは…これは私も本気を出さねばいけないようだな…」
「その言いっぷり、まるで今までは本気を出していなかったと言っているように聞こえるが?」
「…その通りだが?」
「ソレイユ…気をつけて!奴の…クビラの魔力が増大しているわ!」
「分かっている!!リュンヌ…奴は、あの禁術を使うつもりだろう。あの魔法の準備をしておいてくれ!」
「分かったわ!!」
そう言うと、再び魔法の詠唱に入る母。
「…最後の別れは済んだようだな」
「バカなことを。最後になるのは、クビラ、お前の方だ!!」
「…まぁ良い。私を本気にさせたことを、銀色の雨の中で悔やむがよい!!」
クビラがそう言い終わると同時に、生家の周囲を毒々しい緑色の雲が覆い始めたのだった。
第8話 に続く