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剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode6「ワイギヤの血筋」 第8話 〜英雄の末裔〜

「空に集いし紫色(ししょく)の暗雲よ!我に仇なす者どもにその力を示せ!!」

「精霊シャムスよ!邪悪なる者に汝の力を示し、撃退せよ!!」

 クビラと母リュンヌの詠唱が同時に終わり、クビラは右手を前にかざし、母は樫の杖を天高くかざして叫んだ。

「メルクーリュス!!」

「サンシャインウェントゥス!!」

 刹那、クビラが呼び出した紫の雲から銀色の雨が降り出した。

 一方、父と母の周辺にあった紫の雲は、母の魔法で呼び出された聖なる太陽の風によって吹き飛ばされた。

「妻の魔法が、お主の魔力を凌駕したようだな!」

「ククク…確かにそのようだが、まだ終わった訳ではないぞ!!」

「口から出まかせを言うな!!」

「出まかせではない!周囲をよく見るんだな!」

「ソレイユ!雨が…銀色の雨が…」

「…何だと!?」

 母が呼び出した聖なる太陽に一番近い場所の銀色の雨が、母の魔法によって白い粉に変化したその時、小さな爆発が発生した。この現象は一瞬のうちに周囲に広がり、森の木々や木造の私の実家から火の手が上がり始めた。

「クビラ!!一体何をした!?」

「我は何もしておらぬ。お主らが呼び出した太陽によって、私の水銀が化学変化を起こしただけだ」

 その時、母が呼び出した聖なる太陽が姿を消した。周囲を見渡すと、クビラが呼び出したであろう水銀は、白い粉となって空中を漂っている。

「さぁ、教団の鉄槌を受けるがいい!!」

 クビラがそう言い放った瞬間、空調を漂っていた白い粉が父と母の元に集まり出した。

「あなた…」

「リュンヌ!!危ない!!!」

 父は母の元へ駆け寄ると、魔法で見えないシールドを周囲に作り出し、防御態勢に入った。

 次の瞬間…

“ドッカーーン!!!”

 父と母の元に集まった白い粉が大爆発を起こし、2人はその爆風によって森の奥へと姿を消した。

「…爆風を利用して、我の目を眩ませたつもりなのだろうが…逃がしはせぬぞ!」


***


「メルクーリュスのクビラ…何て恐ろしい魔法の使い手なの…CAの中でも手練れの父さんと母さんが敵わなかったなんて…」

「で、その後父さんと母さんはこの小屋に逃げ込んだってこと?」

「恥ずかしい話だけど、そういうことよ」

 ふと父と母の全身を見渡すと、至る所に生々しい傷跡が残されている。

 ここの小屋に逃げ込んで、回復魔法で身体を癒やしたのだろう。

「ここに逃げ込んだ後すぐに、教団の者には見ることも触れることもできなくなる結界を小屋に施したんだ」

「…それで、私がこの小屋の前に立った時に結界が破られたと思って、襲ってきたって訳ね…」

「そういうことよ。でも、父さんのこと、許してあげてちょうだい」

「分かってる…そんな状況だったら、私でも結界の中に入ってきた奴に襲いかかるもの」

「ありがとう、アルモ。ところで…アルモがここに来た時、クビラの姿は無かったんだね?」

「ええ。探索の魔法を使っても、それらしい気配は察知できなかったわ…」

「…家はなくなってしまったけど、ここなら少しは休めるわ。中に入って話しましょう」

「そうだな」

 地面に落としっぱなしの獲物を取り上げる父。

 その姿を見た私も、地面に横たわる月明りの剣を拾い上げると鞘に収め、両親と共に小屋の中へと入った。

 この小屋は普段は薪などを保管する物置として使っているのだが、今はきれいに整頓され、簡易的ではあるものの、生活するには不自由しないであろう物品が揃っているように見える。綺麗好きで片付け上手の母が、父がドアの前で警戒をする傍らで、ここでの生活を想定し片付けたのだろう。

 私と両親は、それぞれ古びた椅子に座ると、話を始めた。

「…それでアルモ、私たちの元に戻ってきたのには、何か理由があるのではないかい?」

「確かにその通りなんだけど、どこから話せばいいのか…」

「それには及ばないよアルモ。リュンヌ、手を…」

「はい、あなた」

 そう言うと父は、片手で母の手を握り、もう片方の手を私の頭に添えた。

 両親の身体の周りを、淡い光が包み込む。

「…なるほど…ガイーラは教団の手に落ち、旅の途中で出会ったアコードという少年には、生まれながらにして魔法の素養がありそうだ、と」

「そしてその少年はCAの一員として、教団と戦う道を選んだ、という訳ね」

「それにしても………フォーレスタ…どこかで聞いたことのある名だが…」

「あなた…フォーレスタと言えば、CAが伝える正史に出てくる、あの人のことじゃ?」

「…おお!そうだったな。クレスが生涯守り通したという、教団の始祖ワイギヤの子の名だ」

「えっ!?だって、フォーレスタって、アコードの家の名前よ!?」

「CAに伝わる正史には、ワイギヤの子は魔法の力を星の海に返さず利用することにした教団から疎まれ、そして親であるワイギヤの遺志を継いだ子もまた、教団を敵視していたと伝えられている」

「ワイギヤの死後、ワイギヤの子フォーレスタは教団を去り、森の奥底へと逃れると同時に、姓と名を逆転させ教団からの執拗な追撃を逃れたそうよ」

「つまり…」

「アルモ…お前は騎士クレスの末裔で、その少年はワイギヤの末裔、ということだ」

「アコードが…教団の始祖の末裔!?」


第9話 に続く