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剣世炸 novel site 〜月明りの少女〜

月明りの少女

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode7「三日月同盟」 第1話 〜風雲急告〜

“チュンチュンチュン…”

 地平線から昇った陽の光に照らされ、朝露をまとった森の木々が幻想的な風景を作り出している。

 その枝にとまった数匹の雀たちが、朝露を地面へと落としながら、その心地よい歌声で俺たち4人に爽やかな朝の訪れを告げていた。

「…それにしても、俺とサリットも、アルモとアコードの旅に同行することになるなんてな…アコードがこの村を旅立ったころには、考えもつかなかったな…」

「とある詩人は、こう言ったそうよ。『事実は小説よりも奇なり』ってね!」

「それは……確かに言えてると思う。狂気に満ちたコボルトが村を襲撃してきたあの時、アルモがたまたま通りかかって俺たちと戦ってくれたから、俺はアルモの旅に同行しようと思ったわけだし」

「…でも近い将来、アコード、あなたはフォーレスタの試練を受けて、村長の地位を引き継いで、世界の理を知ったはず。そうなれば…」

「だけど、そういう形でアコードが村長になった場合、村の誰かと結婚をして、自分の命と引き換えに、自分の子どもにフォーレスタ家の伝統を引き継いだ、ということだろ?」

「…まぁ、そうなった場合は、その可能性は高いだろうな…」

「平穏だけど命のリミットが決まった人生か…教団という未曽有の敵を相手にしなきゃだけど、自分の命にリミットが決まっていない人生か…」

「…選択権があるとすれば、アコードなら間違いなく後者、つまりは今から歩もうとしている人生を選択しているでしょうね」

「アルモ…」

 俺とアルモ、それにシューとサリットの4人は、三日月同盟の本部を目指し、フォーレスタ村の俺の実家を後にしていた。


***


“トントントン…”

 玄関から、木の扉をノックする音が聞こえる。

「…誰かしら?こんな時間に…」

「…もしや…教団の者なのか?」

「いや…この気配は、恐らく………アコード。敵でなさそうだから、出て差し上げて」

「分かったよ、母さん」

“トントントン”

“ガチャ…ギィ…”

 俺が扉を開けると、そこには金髪の髪の毛を持ち、ほのかに光る剣を携えた女性が立っていた。

「!!アコード!!!やっぱりアコードだ!!!!」

“ギユゥ”

 俺は突然のことに驚きながらも、抱きついてきた女性の両肩に手を置き、身体から少しだけ引き離す。

「アルモ!!どうしてここにいるんだ?君は確か、サプコッタ大陸にある実家にいるはずじゃ…」

 俺の言葉を聞き、自分がしたことに対する羞恥心からか、頬を赤らめ、アルモは軽く俯いた。

「ご…ごめん…なさい……いや、アコード会うのは、随分と久々だなぁ〜、とか思っただけで…その、あの…」

「…アコード。お前も隅に置けない奴だった、ということだな…」

「シュー!何でそうなるんだよ!?」

「だって、なぁ…サリット!?」

「ちょっと!私に話を振らないでよ!」

「でもさ、サリットもそう思わないか?」

「………アコードだって、もう立派な成人男性よ。恋人の一人や二人、いたって可笑しくないわ」

「恋人じゃないぞ!」「恋人じゃないわ!」

 サリットの言葉に、俺とアルモは思わず同じ言葉を叫んだ。

「…誰がどう見ても、恋人同士にしか見えないけどな、俺には…」

「…」「…」

「まぁ、その…クレスの子孫、アルモよ…お父上とお母上からは、大体のことを聞いておろう」

 自分の息子を助けるつもりだったのか、はたまたこの場にいる一番の年長者としてだったのか…村長である母がアルモに問う。

「その…取り乱してすみません。ご無沙汰しております。村長とは、コボルトの一件以来でしたね…それで、私の父と母のことをご存知なのですか?」

「直接お会いしたことはないが…CAの本部と我がフォーレスタ家とは、昔から繋がりがあってね…ソレイユ殿とリュンヌ殿が、我が先祖フォーレスタをお助けした光の騎士クレスの子孫と思しき赤子を引き取り、育てているということは聞いていた」

「最初、コボルトの一件であなたがフォーレスタに立ち寄った時、CA本部から聞いていた風貌から、あなたがクレスの子孫だと薄々は感づいていたのだけど、確信までは持てなかったものだから…」

「そして、我が息子アコードは、あなたの旅に同行することを切望していた。だから、あなたと共に旅立ちやすいよう、息子をけしかけたのさ」

「そうだったのですね…」

「…そうだったのか、母さん」

「アコードが旅立った時の話はいいとして…アルモよ。お父上とお母上からは?」

「はい…」

 アルモが、実家の父母から聞いたことを整理して、俺たちに聞かせる。

「なるほど…アコード、アルモにこちらの話を聞かせてあげなさい」

「分かった」

 そして今度は俺が、村の洞窟奥で起こった出来事や、フォーレスタ家の秘密、俺が力を継承したにも関わらず母である村長が生きているというこの事態が、既に世界の異常状態を示しているといった内容を話した。

「…大体把握できたわ…であれば尚の事、早くCA本部に行って今後の対策を練らなければならないわね…」

「CA本部って、一体どこにあるんだ?」

「本部は、このフォーレスト大陸の北、グルン大陸の中心にあるわ。公には、その大陸を支配するグルン王朝はワイギヤ教を国教としているけど、その実は三日月同盟の本拠地で、教団の活動を監視しているという訳」

「そうだったのか…」

「わがフォーレスタ家は、本部とのつながりはあるものの、その本拠地までは知らなくてね…」

「母さん…本拠地も知らないのに、どうやってCA本部と連絡を?」

 そういうと、母さんは右手を伸ばし、手の平を天井に向け呪文を唱えた。

 刹那、大きな楕円形の鏡が、母さんの手の平の上に現れた。

「この通信鏡さ。数カ月に一度、定期的に連絡が入るようになっている」

「その鏡と似たようなものが、実家にもありました…ですが、実家はワイギヤ教軍の将軍の手にかかって…」

「…アルモ…辛い思いをしたんだな…」

「…」

 項垂れかかってきたアルモの頭を、俺は優しく撫でる。

「…それがあるなら、わざわざCA本部に行く必要はないのではないかしら?」

 サリットが、通信鏡を見て誰に言った訳でもなく、疑問の言葉を投げかける。

「それが、この通信鏡はCA本部からしか通信を繋げることができないのだよ。通信が繋がっている間は、双方向に相手の顔を見ながら会話ができるのだが、ね…」

「なるほど…だから、こちらからコンタクトを取りたい場合は、本部に出向くしかない、という訳ですね…」

「そうなのだが、今まではその本部の場所が我が一族には伝えられていなかったし、我が一族は秘密裡にCAからの保護を受けているという状況で、しかも教団からの脅威は今の今まで及んでいなかったものだから、こちらから本部へのコンタクトを取る必要がなかったという訳さ」

“ピピピ…ピピピ…ピピピ…”

 その時、母の手の平の上で軽く回転していた通信鏡が青白く光ると共に、聞いたことのない音を発信していた。

「村長!通信鏡が!!」

「…可笑しいな…今日は本部からの通信が入る日じゃないのだが…」

 そう言うと母は、鏡の外枠の頂点についていたボタンのようなものを押す。

 すると、青白く光っていた鏡の向こうに、荒らされた室内が映し出されると共に、剣と剣がぶつかり合う音や、魔法が放たれた時の音が入ってきた。

「!!こちらはフォーレスタ。本部、何があったのです?」

「……ザ………ザザザ………た………て………く………!教………十………に襲………わ…」

“フゥゥゥン…”

 雑音に混じり、微かに人の声がしたような気がしたものの、何を伝えようとしていたかまでは分からないまま通信鏡は光を失い、元の鏡の姿に戻ってしまったのだった。


第2話 に続く