原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode7「三日月同盟」 第10話 〜月明りの盾〜
クレスを祀った礼拝堂には、等身大の銅像が祀られていた。
「…これが、英雄クレスなのか…」
「そう。この銅像は、魔法によってクレスがまだ存命の時に作られたそうよ」
「魔法で?」
「ええ。魔法でその人物の型を作り、そこに原料となる銅を流し込むらしいわ」
「なるほどな。ということは…」
「そう。素材が銅というだけで、それ以外はその人そのものって訳」
威厳のある、それでいて優しさも感じられる顔立ち。長髪を後ろで束ね、今にも動き出しそうな姿勢で、その銅像は祀られていた。
「…それにしても、この銅像…何かが欠けているような気がするのは、気のせいか?」
「このクレスの銅像には、『月明りの剣』がないのよ。理由は不明だけど…」
銅像の右手を見ると、それ自体は剣を握っている形になっているにも関わらず、そこにあるはずの剣の姿だけが見当たらなかった。
「左の腕には『ガーター』があるのに、どうして…」
その時、突如として銅像が黄金色に輝き出し、同時にアルモが持つ『月明りの剣』もそれに共鳴するかのように輝き出した。
「アルモ…もしかして!!」
「ええ。きっとそうに違いないわ!!」
アルモは、輝き出した月明りの剣を鞘から抜き去ると、銅像の右手にそれを納めた。
“キィーーーーン…”
次の瞬間、銅像の左腕にあったガーターが銅像から離れ、銀色のガーターへと姿を変えた。
そして、剣とガーターは俺とアルモの足元まで移動すると、激しい輝きは失われ、月明りのような優しくほのかな輝きへとその姿を変えた。
「アルモ…これって、もしかして…」
「…間違いないわ。このガーターが、アーティファクトの一つ『月明りの盾』に間違いないわ」
そう言ってアルモが月明りの盾を拾い上げようとした、その時だった。
“タッタッタッタッタッ…”
礼拝堂の入口の奥から、何者かが近づく足音に気づいて俺とアルモは、入口に目をやった。
すると…
「アコード!それにアルモ!!無事だったか…」
「シュー!シューじゃないか!!」
「どうしてあなたがここに?」
礼拝堂に姿を現したのは、グルンニードの宿に居るはずのシューだった。
「サリットはどうした?それにザイール殿は?」
「サリットは少し調子が悪くて、宿に待機している。ザイール殿は俺にアコード達への言伝を頼むと、街に情報収集に向かった」
「サリットは大丈夫なのか?」
「ああ。休んでいれば、大丈夫みたいだ」
「そうか…」
「それで、ザイールの言伝って?」
「それなんだが…二人の後ろにある月明りの盾…それは罠だ!!」
「罠…だって?」
「どういうこと?」
駆け付けたシューによれば、封印を解除した直後に現れるアーティファクトは罠で、それを破壊することによって、真のアーティファクトが姿を現すのだという。
「ちょっと待って…ザイールは、確か総帥からアーティファクトの封印について引継をしていないから、詳細は分からないと言っていたわよね…」
「確かに…詳細が分からないから、アルモが直接本部に行けば何か分かるかも知れないってことで、俺とアルモのみで本部に潜入することになったんだったよな…」
”ジーーーーー…”
疑いの眼差しでシューを見る俺とアルモ。
「い…いや………ザイールが昨晩本部から持ち帰った資料を整理していたら、封印について分かったらしくてな…」
明らかに、動揺した面持ちでその場を取り繕おうとするシュー。
その時だった。
“ドドドドドドドド…”
礼拝堂の入口から、今度はかなりの人数の足音が木霊してきた。
そして、100人は収容できるであろう礼拝堂に、50人余りの教団兵が姿を現した。
「アコード!」
「シュー!今は言い争いをしている場合じゃなさそうだ!!お前は俺とアルモの援護をしてくれ!」
「了解した!!」
俺とアルモの前にいたシューが、不敵な笑みを浮かべながら俺たちの後方に下がろうとした、その時…
「アルモ!!」
「ええ!分かっているわ!!」
アルモは足元に置かれた月明りの剣を右手で拾い上げると同時に、月明りの盾を左手で拾い上げようと試みた。
“ササッ…”
ところが、あと一歩のところで拾い損じてしまい…というよりも、即行で動いたシューのスピードに負けてしまい、月明りの盾を拾い上げることは叶わなかった。
そして月明りの盾は、シューの両手に納まっていたのだ。
「シュー!!」
「それを返して!!」
「いやいやお二人さん。これは罠だと言ったじゃないですか!」
「罠だったとしたら、シュー!お前も危ないんじゃないのか?」
「俺?俺は大丈夫さ。なぜなら、教団が長年かけて研究した、対アーティファクト魔法によって守られているのだからな!!」
“ピキーーーーーン!!”
次の瞬間、アルモが持つ月明りの剣と、シューに成りすました人物が持つ月明りの盾が再び共鳴し、輝かしい光を放ち出した。
“ピキ………ピキピキピキピキ………”
「…何だ、この光は……あぁ…私の魔法が解除されていく……」
まるで春先に凍った湖面が割れる時のように、シューの姿の複数個所にヒビが入り、ボロボロと剥がれ落ちていく。
そして、数秒後にはシューの姿は跡形もなく崩れ去り、光を放っていた月明りの盾は、本来の持ち主であるアルモの手に瞬間移動していたのだった。
第11話 に続く