原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode7「三日月同盟」 第13話 〜悲しきソルジャー〜
ヴァジュラの副長が放った死者を操る魔法により、俺たち3人に倒されたワイギヤ兵たちが次々とその場に立ち上がった。
だが、その目に生気はなく、自らの意志で俺たちに戦いを挑んでいた時の面影は、何一つ残されていないようだった。
また、中にはまだ息のあった兵も数十名いたようだったが、副長の魔法により肉体的には強制的に死者となってしまったようで、それまで何とか生きようとしていた目の輝きは、魔法が入り込むことにより失われ、他の死者と同じ有様になっていた。
「何と惨いことを…」
「私、こんな光景、見てられないわ…」
そして、魔法をかけた副長本人にも、異変が生じていた。
「…ザイール殿!!あっ………あれは一体!!」
俺は副長の左腕付近に現れた、青い頭巾を被り、柄の長い大きな鎌を両手で持った亡霊を指さした。
「『カダーウェルドール』…。奴がこの魔法を放つ前の詠唱呪文を、覚えているか?」
「確か…『……我の血肉をもって、我が同胞達に生の恵み…』……って…まさか!!」
「ああ、そのまさかさ。屍術師(ネクロマンサー)は、さまざまな形で死者を操ることが可能だが、その代償として、魔力の他に自らの身体を差し出さなければならない。1〜2人位の死者に魔法をかけるなら、血液や毛髪でどうにかなるレベルだそうだ。故に、古代のネクロマンサーは、時間をかけ自らの僕(しもべ)を作り出していたと聞いたことがある」
「…ところが、今回は一気にその僕(しもべ)を作り出した…」
「だから、あの亡霊は、副長の腕を…」
“…闇の盟約に従い、代償を頂くぞ”
“ズシャッ!!”
“ボトッ”
亡霊は両手で持った鎌を振りかざし、副長の左腕を根元から切り落とした。
“シュゥゥゥゥゥ…”
そして、切り落とされた左腕が黒い光に包まれたかと思うと、次の瞬間には黒い光の粒となって周囲に離散した。
「…自らの身体と仲間を犠牲にしてまで……それで、あなたは…ワイギヤ教軍の兵士は救われるというの!!!?」
「……何を言う小娘!教祖様のために働くことは、我々にとって何よりの喜び!ましてや、死者となってまでも教団のために働ける部下達は、最高の幸せを得たも同然なのだよ!!」
「…狂ってる……」
「何とでも言うがいい。第一、これまで世界の平和を維持してきたのは何だ?無能な王族たちか?何も知らない一般市民か?否、それは教団による統治が全世界的に行われていたからに他ならない!」
「……俺は最近まで、教団が悪だなんて信じられなかった…だが、お前の行いで、三日月同盟が…アルモやアコードが成そうとしていることが、間違っていないと確信した!世界の魔力を占有し、死者を冒涜するような魔法の研究をする教団に、正義など存在しない!!」
「シュー…」
「何も知らない若造が!!同盟の犬、そしてその女と共に、我が兵の餌食となるがいい!!」
いつの間にか5人1組の陣を作り上げていた屍兵達が、副長の言葉と共に一斉に突撃を始めた。
「………何だか、さっきより統率が取れているように感じるのは、私だけ!?」
「いや…サリット。それは勘違いなんかじゃない!」
「副長が左腕を代償として強力な力を発動させているためだろう。ネクロマンサーの強い意志が、一糸乱れぬ屍兵の突撃を実現しているんだ!」
「…だが、俺たちのやることは、たった一つだ!そうだろ!?」
俺はカットラスを副長に向け伸ばす。
「…シューのくせに、決まったじゃない!?」
「全く…魔法を知らないくせに、良い勘しているよ…」
「2人とも…ちょっと酷くないか?」
「私はこれでも褒めたつもりなんだけど?」
「とにかく、シューの言う通り、副長を倒すぞ!」
「「了解!!」」
“ザザッ”
俺たちは、副長目指し突撃した!!
***
“キン…カン……キン…”
ヴァジュラの後方から、武器と武器がぶつかり合う音が木霊してくる。
シューら3人がヴァジュラの横をアルモのサポートを経て通り過ぎた後、俺たち2人とヴァジュラは、互いに相手のスキを突こうと膠着状態になっていた。
「(…全くスキがない。さすが、教団の将軍といったところか…)」
「アコード…」
「ああ。わかっている」
蟀谷(こめかみ)から、一筋の汗が流れ落ちる。
それを気に掛けた一瞬のスキを、奴は逃さなかった。
“ザザッ”
「アコード!」
「!!」
俺は流れ出た汗に気を取られたことを即座に後悔した。
“ザシュ”
ヴァジュラの斬撃が俺を襲う。
刹那…
“ギィン!!”
俺を守るように、アルモの月明りの剣がヴァジュラの一撃を寸でのところで食い止め、鈍い金属音が辺りに木霊する。
「アコードは…この私が護る!!!」
「そうか…だが、これで終いと思うたか!!」
ヴァジュラはすぐに月明りの剣で弾かれた自らの得物を、アルモの左肩めがけて振り下ろした。
“シュン!!”
“キィィィン…”
その攻撃を予見していたかのように、アルモは左腕に装備した光の盾で、ヴァジュラの攻撃を再度防ぐ。
「それで、我の攻撃を防ぎ切ったと思……ウッ……ウワァァァ!!」
“ピキィィィィン”
ヴァジュラが言い終えるか否かのところで、突如光の盾が光り輝き、ヴァジュラを包み込む。
そして、それによってヴァジュラに生まれた一瞬のスキを、俺は見逃さなかった。
“ズシャッ”
「ウグゥ」
ヴァジュラは俺のショートソードの攻撃をもろに受け、低いうなり声を上げる。
“スタッ”
そして、その場に片足をついたヴァジュラの姿を確認した俺とアルモは、数歩後ろへ下がり間合いを取った。
「…やっぱり、君との連携は、相性バッチリだわ」
「フォーレスタ村で共闘した時もそうだった。何なんだろう?アルモの次の行動や考えていることが、俺には分かる、というか…」
「そんな前から…私のこと…考えてくれていたなんて!」
「えっ!?…まぁ…その…何というのか…ハハ」
そんな会話をしている矢先だった。
“カダーウェルドーーーーール!!”
「!!何だ…あの漆黒に染まったオーラは…」
「あれは………ネクロマンサー!!」
シューら3人が相手にしているのは、ワイギヤ教軍の兵士およそ100人と、それを率いる副長、のはずだった。
「ククク……アッハハハハハ!!!奴め、とうとうあの秘技を発動させたか!」
「アルモ…秘技って……」
「ネクロマンサーは、死者を操る魔術師。その魔法にかかって屍兵となった者は、その体がばらばらになるまで、術者の敵と戦い続けるのだそうよ…」
「死者を、操る魔法か!?」
「お前らの仲間は、終わることのない戦いを続け、やがて屍兵の餌食となるだろう!!」
「ふざけるな!!」
「さて、副長に負けるわけにはいかないな。私も、本気を出すとしよう」
次の瞬間、ヴァジュラから一気にオーラが放出され、あっという間に周囲を包み込んだ。
「光栄に思うがいい。我が形態変化を拝むことができることをな!!」
ヴァジュラがそう言い放った瞬間、周囲を包み込んでいたヴァジュラのオーラが一瞬にして一点に集中したかと思うと、周囲を爆風で包み込んだ。
そして、風威が納まりヴァジュラが立っていたであろう場所の奥に、巨大な人影が姿を現したのだった。
第14話 に続く