原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode7「三日月同盟」 第2話 〜本部への旅立ち〜
「!!こちらはフォーレスタ。本部、何があったのです?」
「……ザ………ザザザ………た………て………く………!教………十………に襲………わ…」
雑音に混じり、微かに人の声がしたような気がしたものの、何を伝えたかったのかは分からず、鏡自体も光を放っているだけで、向こう側の様子は映し出されていない。
“フゥゥゥン…”
そして数秒後に通信鏡は光を失い、元の鏡の姿に戻っていた。
「母さん!」
「…どうやら本部が襲撃を受けているようだな…だが、ここからグルン大陸の中心部までは、どんなに急いでも、陸路と海路を経由して最低1週間はかかるだろう。残念だが、本部の人間だけで、今は守ってもらうしかない…」
「…いや…1つだけ方法があるんじゃないか?」
「アコード!?」
「それって、どういう…」
「アルモだよ!」
「???」
「本来なら、今はサプコッタ大陸にある実家に居るはずのアルモが、今ここに姿を現している…これが意味すること。それは…」
「私が魔法を使って、ここまで移動したからよ!」
「!!テレポーテーション、か…」
「村長!それは一体…」
「瞬間移動を可能にする魔法で、治癒者(ヒーラー)が得意とする魔法だが…」
「母から、その魔法を授かりました。それで、この家まで瞬時に移動できたんです」
そこまで言い終え、アルモが顔に陰りを見せる。
「…どうした?アルモ…」
「テレポーテーションの魔法は、確かに一度行ったことのある場所に瞬間移動できる魔法よ。でも、それは移動しようとする全員がそうでなければならないの」
「…つまり、アルモのテレポーテーションで本部に行けるのは、この中ではアルモ一人、ということか…」
その場を、何とも言えない重い空気が支配する。
「俺たちも、ついさっきまでこの森にある洞窟の奥に居たんだ。それを、母さんの魔法でここまで瞬間移動したんだけど…母さん、あの魔法でここにいる全員もしくは一部を本部まで運ぶことはできないのか?」
「…あの時私が発動させたのは、帰還(リターン)という魔法で、予め転送したい場所に魔法の陣を張り廻られておく必要がある。この家には、何かあった時のために陣を張り巡らせておいたから、帰還の魔法が使えた…」
「…でも、村長の陣が本部に張り巡らせてあるはずもない訳だから…」
「帰還の魔法で、本部に飛ぶのは不可能、という訳さ」
「アルモを一人で行かせる訳にはいかないし…本部に行くには、やはり陸路と海路で行くしかないか…」
「さっきも言ったが、となると本部の守りは本部の人間に任せるしかなかろう。いずれにしても、本部に行って状況を確認し、今後の対策を講じなければなるまい」
「…本部が壊滅していたら?」
「その際は、他の支部が本部に昇格することになっているから、その足で他の支部に行くしかないわね」
「そうと決まれば、今日は体を休めて、明日出発すると良い。長旅には、それなりの準備も必要となろう」
こうして、シューとサリットは自分の家に戻り、俺は自分の部屋で、アルモは母の部屋で休息を取ると共に、旅立ちの準備をした。
そして翌朝、俺たち4人はフォーレスタ村から旅立った。
***
「ところで、アルモ…俺とサリットも、魔法って奴を使うことって、できるのかな…」
フォーレスタの森を北上し、街道に出たところで、唐突にシューがアルモに問う。
「魔法というのは、天賦の才でもない限り、やはり修行をしないと身につかないものらしいわ。自分が凄いみたいな言い方は嫌いなんだけど、私やアコードみたいな特殊な例を除けば、三日月同盟や教団の魔法使い達は、須く修行の末に魔法を使うことができるようになっているの」
「…前々から疑問に思っていることなんだけど、魔法を使うための魔力の源は、教団が握っているわけよね…でも、あなたやアコード、そして三日月同盟の人や妖精の類は、魔法を行使できるわよね…それは何故なの?」
「まず、妖魔や妖精が魔法を使えるのは、妖魔や妖精自身の体に魔力を生成する器官があるからだと聞いているけど、詳しいことは分かっていないらしいわね」
「それから、教団の魔法使いが魔法を使えるのは、杖に集まった魔力を使う技術を行使しているからね。三日月同盟の魔法使いも、それを立ち上げた私の先祖クレスが、その技術をもたらしたそうだけど、私はその技術を使う前に魔法を使えるようになったから、それが一体どういったものなのかは分からないのよ」
「つまり、魔法を使うための修行をした上で、教団と三日月同盟に伝わる魔法を行使する技術を手に入れなければ、魔法は使えないという訳か」
「そういうことになるわね…」
「…修行って、どの位かかるものなんだ?」
「私の父さんや母さんは、使えるようになるまで10年位を要したって言ってたわね…」
「私とシューに天賦の才があるとは思えないし…シュー、この話は諦めなさい!」
「…そうだな…まっ、俺は剣術で、サリットは投剣術で2人の旅をサポートしていけばいいな!」
「そうね!」
「2人とも…ありがとう!」
「アコード!それにアルモ!頼ってくれて良いんだからね♪」
「ありがとうサリット!」
こうして俺たちは街道をそのまま北上し、この大陸の最北端の港町に到着した。
そこで、船のチャーターに無事成功。俺たちは北の大陸グルンへと渡ったのだった。
第3話 に続く