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剣世炸 novel site 〜月明りの少女〜

月明りの少女

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode7「三日月同盟」 第3話 〜北の大地〜

「応答せよ!こちらは三日月同盟本部。助けてくれ!!教団の十二将軍率いる軍団に襲われ、現在も交戦中!!こちらはみか…」

“ザシュッ”

“ピキピキ………バリィィン…”

「ギャァァァァァァ…」

 その男は、通信鏡でSOSを試みていた兵士を背後から一刀両断し、その剣圧で通信鏡そのものをも破壊してみせた。

「…ヴァジュラ様!お怪我はありませんか?」

「大丈夫だ。問題ない…それよりも、例のモノは?」

「それが、まだ…」

 ヴァジュラと呼ばれた男の質問に、部下が恐縮そうに語尾を濁らせる。

「必ず探し出すんだ!ここに、必ずあるはずなのだ!!」

「かしこまりました。必ず探し出します!」

 一瞬でその場から消える部下。

「…教団に仇なすクレスの遺品は、全て回収し破壊せねば!」

 独り言を呟き、その男もその場から姿を消した。


***


 フォーレスタ村があるフォーレスト大陸の北にあるグルン大陸は、一年を通して雪と氷に覆われた土壌が広がっていて、農産物の生産には適さない土地であった。

 ところが…

「…随分と栄えた市場だな…」

 フォーレスト大陸最北端の港町から船でグルン大陸に渡った俺たち4人は、船から降り立った眼下の広大な『市』に、驚きを隠せないでいた。

「フォーレストの城下町も、大概栄えていたように思うけど…この市はそれ以上だよな…」

「私が、以前三日月同盟本部に用事があってこの大陸に来たのが数年前だったけど、その時はここまで大きな市にはなっていなかったわ」

「グルン王朝は、自国で農作物の生産が期待できない分、民芸品の生産を全国民に推奨しているらしいわ」

「…確かに、俺の家にもグルン産の民芸品がたくさんあったっけ…」

「全国民で生産している民芸品を世界に売り込んで、外貨を稼いでいるという訳だな…」

「…で、稼がれた外貨によって、本来この土地では出回ることのなかった農産物が、この場では出回っている、ということね」

 市を見回すと、確かにこの雪国では育つことのないであろう野菜やフルーツが、あちこちに並べられているのが分かる。

「さて、本部への道は私が知っているけど、ここから本部、つまりはグルン城のある大陸中央へは、馬車を使っても1日以上の行程よ。今日はここの宿で十分に休息を取って英気を養うと同時に、この大陸の最新情報を仕入れておきましょう」

「…それじゃ、まずは今日の宿探しからだな」

「それなら、私に心当たりがあるわ。一緒についてきて!」

 アルモに先導され、たくさんの人々が行き交う市を通り抜けて行く。

 数分後、俺たちは一軒の古びた宿屋前に到着していた。

「ここは、三日月同盟の仲間がよく使っている宿屋なの。外見は古びているけど、中身は他の宿と遜色ないわよ!」

 そう言われ中に入ると、確かに古びた外見とは異なり、中は手入れが行き届いた宿のようだった。

 三日月同盟の仲間が使う宿とのことだが、三日月同盟が経営している宿ではないらしく、宿の経営者も三日月同盟とは無縁の人物のようだ。

 カウンターでチェックインを済ませた俺たちは、ロビーに置かれたテーブルを取り囲むように配置してある椅子に座った。

「部屋は、2人部屋を2部屋、おさえたわ」

「それじゃ、私とシューで1つ、アコードとアルモで1つ、で良いわね」

 アルモがテーブルの上に置いた、片方の部屋の鍵を即座に奪いつつ、俺の顔を見てウインクをするサリット。

「えっ!…まぁ、あの………俺は、アルモが良ければ、構わない……けどさ……」

「(…アルモは、男子部屋と女子部屋のつもりで、2つ部屋をおさえたんじゃ…)」

「…私も………アコードさえ良ければ……」

 頬を赤らめ、俯き加減になる俺とアルモ。

「決まりだな!」

「ねぇアルモ…この町の地図みたいなものはないかしら?」

「あそこにあったような気がするけど…」

 頬を赤らめたまま、アルモは顔を上げ、受付を指さす。

「分かったわ。それじゃ、私とシューは部屋に大きな荷物を置いたら、地図を頼りに情報を収集するわ」

「…分かった」

「アルモは、この町のことは大体分かるんだよな?」

「…ええ。新しくできた地区のことは分からないけど、昔からある地区は、大体分かるわ」

「それじゃ俺とサリットは、アルモも分からない新しい地区で情報を収集することにしよう」

「それがいいわね!」

 そういうと、サリットは受付に平置きされたこの町の地図を、あっという間の早さで持参し、テーブルに広げた。

「アルモ、あなたが分からない、新しい地区の部分に印をつけてくれない?」

「分かったわ!ちょっと待ってね…」

 テーブルの上に置いてあった羽ペンとインクのボトルを自分の近くに寄せ、アルモが地図に書き記していく。

「なるほど…大体町の南西部分が、アルモ的には『新市街地』という訳ね」

「よし!それじゃ行こうか、サリット!」

「そうね!それじゃ、新市街地以外の部分を、お二人さん、頼んだわよ!」

「分かったわ!」

「任せておけ!!」

「日が沈んだら、ここに戻って来ることにしましょう!」

「もし、日が沈んでもここに戻っていなかったら、その時は緊急事態が発生していると思って」

「了解!」

 そう言うと、シューとサリットの2人は、宿泊部屋のある二階へと続く階段に消えていった。

「…俺たちも、部屋に荷物を置きに行こうか?」

「えっ…そ……そうね…そうしましょう…」

 二人きりというこの状況に慣れていないためか、俺とアルモは何となく気まずい空気に苛まれながら、部屋に大きな荷物を置くとアルモの案内で町へと出発したのだった。


第4話 に続く