原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode7「三日月同盟」 第6話 〜出会い〜
「サリット……その…もう、いいんじゃないか。これ以上は…」
顔を赤らめながら、シューがサリットをたしなめる。
「………そうね……」
「…」「…」
その場の全員が頬を赤らめ、そして沈黙という名の空気が支配する。
「まぁ、俺とアルモの話はいいとして…そっちの収穫はどうだったんだ?」
場の空気を打破するため、俺はシュー・サリットペアが集めてきた情報を聞くことにした。
「…そうね……アコード達が居た市場側から逃げてきた商人に、話を聞くことができたわね」
***
“ドドドドドド…”
遠くから、砂煙が上がっているのが分かる。
「…サリット!あの砂煙の方角って…」
「ええ…アコードとアルモが向かった、旧市街地付近ね…」
「一体、何があったんだろうな…」
「…それを確かめるには、当事者に聞くのが一番ね」
そう言ってサリットが合図を送った先には、膝に手をついて『はあはあ』と息を切らせている商人の姿があった。
「…大丈夫ですか?」
「まぁ、これでも飲んで」
サリットが話しかけると同時に、俺は懐から竹筒の水筒を取り出す。
「…いいのかい?」
「はい。宿から持ってきた、ただの水ですから」
「それはありがたい!それじゃ遠慮なく!」
“ゴクゴクゴクゴク…”
「ところで、何があったんですか?」
「…お前さん方は、旅の方とお見受けするが…禁制取引って、知っているかい?」
俺とサリットは、同時に首を横に振る。
「ワイギヤ教団が、宗教上若しくは道徳上取引を禁止している物品を取引することさ」
「それって、例えばどんなものなんです?」
「貴重な動植物の体の一部とか、他教の神の偶像。あとは奴隷や子どもといった『人』だな」
「俺は貿易商を営んでいるんだが、積み荷の中にたまたま偶像が混ざっていてな…それを見た監査官に取り押さえられそうになったところを、間一髪で逃げてきたって訳さ…」
「…商品を置いて逃げて来たってことですか…それじゃもう商売は…」
「何。それは心配いらないさ!」
“ジャラジャラジャラ…”
そう言うと、商人はローブの懐を俺たちに見せる。
「!!よくもまあ、そんなにもたくさんの金銀財宝を、そのローブの中に隠し持てるもんですね……」
「こういう商売をしている以上、何か起こって身一つで逃げたとしても、再起ができるように準備するのが普通だよ」
「はぁ…」
「そうだ!水のお礼って訳じゃないが…俺に何か手助け出来ることはないか?俺に話しかけて水をご馳走したのも、ただの親切じゃないんだろう?それに、お二人さんからは、ただの旅人とは思えない何かを感じるんだ…」
とっさに身構えるサリット。
だが、俺はこの商人が俺たちに害を成す者には思えず、サリットに合図を送って構えを解かせた。
「なら1つ…数日前、この大陸の中央にある王都で、何があったのかを知りたい…」
「何があったのか…って、別に王都はいつも通り平和そのもので…」
「いや、そんなことはないはずだ!夜半過ぎに、大きな騒ぎがあったはずだ!!」
“シャキィィン…”
刹那、俺の喉元に得物の切っ先を当てる商人が、目の前に立っていた。
そして、その商人に今にも飛びかかろうとするサリットを手でおさえる。
「お前らは…教団の遊撃部隊か!!」
“ヒュゥゥゥゥゥゥ…”
その瞬間、それまでローブのたるみで隠されていた商人の腰元が風で煽られ、アコードやアルモの剣の柄にある三日月の紋章と同じものが描かれた、ベルトのバックルが見え隠れする。
「(…この商人は…間違いない!秘密結社『三日月同盟』のメンバーだ!)」
「…もし、教団の遊撃部隊だったら、あなたの話を聞いてすぐに取り押さえると思うけど?」
冷静さを取り戻し、状況を分析したサリットが的確な答えを相手に投げかけた。
“カチャッ”
俺の喉元から、獲物の切っ先が遠退いていく。
「確かに、それもそうだ…」
「…信じてもらえたかしら?」
「ああ。お嬢ちゃんの言うことを信じるとしよう」
「それで…それだけ教団を警戒している、ということは…」
「ああ。間違いなく、夜半過ぎに起きた騒ぎのことについて、俺は情報を握っているよ」
「だが…その情報を知って、お前たちはどうするつもりだ?お前たちに有益な情報とは限らないぞ?」
「…あなたがしている、三日月型のベルトのバックル。あまり見ないものね…それ、どうしたの?」
俺は、そのベルトをしているだけで、三日月同盟のメンバーだと断定していた。
だが、サリットはわざと吹っ掛けるような質問を投げかけ、それを確認しようとしている。
流石、というか、抜け目がない、というか…
「これか?これは、だな………その……」
「(…サリットの質問に、明らかに動揺している…ということは、やはり…)」
「答えたくないなら、別に私たちに言わなくてもいいわ。ただ、私たちの宿に同行してもらえないかしら?私たちの連れが、きっとあなたに用事があると思うから」
「…どういうことだ?」
「もし、水の恩がまだ有効だというなら、俺たちと一緒に来て欲しい、ということさ」
「一飯の恩は、犬も忘れないという…よし、お前たちの連れとやらのところに、連れて行ってもらおうか」
こうして俺とサリットは、道端で助けた、三日月同盟のメンバーと思しき商人と共に、宿に戻ったのだった。
第7話 に続く