原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode7「三日月同盟」 第9話 〜潜入〜
アコードとアルモが、王都グルンニード近くの山中にあるという三日月同盟本部に向かった数時間後…
“シャキーン…”
「!!どうして………」
「…お前は一体…」
刹那、2人の後頭部に手刀の一撃が入り、一瞬にして気を失った。
「ヴァジュラ様…始末しなくてよろしいのですか?」
「ここは街中だ。騒ぎになるのはまずかろう?」
「…左様ですね……連行して、教軍本部で処刑するのがよろしいでしょう。して、例の娘は…」
「男と一緒に、アーティファクトの元へと向かった。私の隊は、どうなっている?」
「仰せのままに、既に布陣済でございます」
「分かった…手筈通り動くよう、副長に伝えてくれ」
「かしこまりました」
“ヒュン…”
「…クレスの子孫、アルモよ…クレスが作った三日月同盟本部が、アーティファクトとお前の墓場となるのだ!!」
***
“ガサゴソゴソガサ…”
「…確かこの辺りに………あった!!」
“ギィ…”
“ゴゴゴゴゴゴゴゴ…”
一般人には分からないよう細工されている仕掛けをアルモが動かすと、何の変哲もない岩壁が動き出し、本部への入口が姿を現した。
「さあ、中に入りましょう」
“コツコツコツ…”
「………」
「どうしたの?アコード…」
「えっ!?…いや…ちょっとな…」
「(この洞窟…初めてきた気がしないような……)」
洞窟は、明らかに人の手によって作られたものだった。周囲が石のブロックによって覆われ、ところどころに当時の文明による装飾が施されている。
魔法の力により光っているのだろうか?装飾と共に等間隔に配置されたランタンが、青白く輝き薄暗い洞窟を照らしている。
「(…この風景…確かどこかで…)」
「…アコード…大丈夫!?」
「思い出した!!周囲のブロックと青白いランタン。間違いない。フォーレスタ村の洞窟内部の作りと同じになっているんだ!」
「???」
「…取り乱してすまない。この洞窟の構造、どこかで見た気がしていたんだが…」
「それが、君が君のお母さんと戦ったという、フォーレスタ村の洞窟と同じってこと?」
「そうなんだ!」
「あり得ない話ではないわね。だって、フォーレスタ村の洞窟は、君の祖先であるワイギヤの息子フォーレスタが、後の世に自分の力を残すために作ったもの。そして三日月同盟は、私の祖先クレスが作ったもの。当時の建築様式や建築技術を駆使して作られたと考えれば、合点のいく話だわ」
「そうだな…それにしても、教軍はさっきアルモが作動させた仕掛けのことを知っていたってことだよな…」
「そうね…信じたくはないけど、三日月同盟の仲間の中に、裏切り者がいると考えるのが自然よね…」
「ああ。魔法による移動という筋は考えにくいしな」
「いずれにしても、これから先何があっても可笑しくないと思っていた方がよさそうね」
「そうだな」
アルモを先頭に、その後ろを俺がついていく形で、本部の奥へと進んでいく。
ザイールの話によれば、ザイール以外の本部の人間は全て殺害され、本部も制圧されたとのことだったが、本部の通路には争われた形跡はなく、本部の人間や教軍の兵の遺体を発見するには至っていなかった。
「…本当に、ここで戦闘が行われたんだよな…」
「ええ。だって、君もフォーレスタ村で聞いたじゃない。通信鏡からのSOSを…」
「ああ。だが、もしも万が一、その通信が真っ赤な嘘だったとしたら…」
「えっ!?」
「だって、通信鏡に本部の映像は映っていなかった。俺たちが聴いたのは、ザザザって雑音と、兵士のSOSを叫ぶ声だけだった」
「…確かに…アコードの推測が正しいなら、私たちは…」
「ザイールに騙されている!?」
「…となると、宿に残してきたシューとサリットが危ない!!」
「アコード…残念だけど、もしザイールが裏切ったとしたら、今から私たちが戻っても…」
「………」
「今は、二人が無事でいてくれることを信じましょう」
「…そうだな。あの二人に限って、そう易々とやられるようなことはないだろうしな…」
「ええ」
「ところで、アルモ。アーティファクトの在処の目星はついているのか?」
「…何となくだけど、当てがあるわ。この先の十字路の先に、クレスを祀った礼拝堂があるの。そこに、きっと光の盾があるわ!」
「礼拝堂か…」
「私がクレスだったら、きっとそこにアーティファクトを封印すると思うのよね…」
「確かに礼拝堂なら、アーティファクトを封印するにはうってつけかも知れないな…よし、急いでその礼拝堂に行ってみよう!」
「分かった!こっちよ!!」
そう言うと、アルモは俺の手を握り、全速力で走り出した。
「(アルモの手…とっても暖かいんだな…)」
「…何、アコード?」
「何でもない!それより、急ごう!」
数分後、俺とアルモはクレスの像が祀られた礼拝堂に到着していたのだった。
第10話 に続く