原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode8「聖遺物を求めて」 第1話 〜聖遺物(アーティファクト)〜
“チュンチュンチュン…”
「…アコード!いつまで寝ているの?起きて…」
窓から差し込む優しい太陽の光。外から聞こえる鳥のさえずり。昔から嗅いできた馴染みのある部屋の匂い。
今日はそれに、銀色の鎧を身に纏った黄金色の髪の乙女が加わり、俺のことを揺さぶりながら起こすという情景が、薄目を開けた俺の瞳に飛び込んできたのだった。
「アルモ…」
「…やっと目を覚ましたのね………まぁ、本部でヴァジュラを撃退した後、すぐにここ(フォーレスタ)に戻ってきて、その翌日には息つく間もなく三日月同盟の支部へ旅立つことになったんだから、仕方ないか…」
***
『…それは、きっとこれを探してのことじゃないのか?』
“フウォン…”
ザイールの言葉の後に、通信鏡に世界地図が映し出される。それには、複数個所に赤い点が付与されていた。
「…この世界地図は?それに、この赤い点は…」
『赤い点は、主に同盟の支部が置かれた場所。そしてそれは同時に、君たち4人が今後向かわなければならない、アーティファクト(聖遺物)の在処さ!』
「「「「「!!!」」」」」
「ザイール…総帥の地位を引き継いだばかりだっていうのに…」
『気にしないでくれ!総帥という地位を引き継いで分かった。アーティファクトの封印が解かれ始めている今、何を差し置いてもアルモとアコードの力にならないといけないんだ、とね』
「ザイール殿…」
『アーティファクトは、各大陸に置かれた支部にも封印されている。元来、来るべき時に備えてアーティファクトの封印を守ることこそが、三日月同盟が設立された経緯のようだ』
「私のご先祖様のクレスが、将来起こり得る事態を想定して三日月同盟を設立し、アーティファクトの封印を教団から守ろうとした、ということね」
『左様。そして、地図をよく見ると、1つだけ君たち全員が知っている場所が赤く光っているだろう?』
「………」
「これは!?総帥殿…どういうことなのです?」
「!!こんなところにもアーティファクトがあるというの!?」
「???」
「…アコード…俺とサリットには全く訳の分からない話なんだけど…」
「えっ!?…あぁ、すまない。地図の中央に描かれた、高い山は分かるか?」
「ええ。セントギア山よね!?確かに、ここも赤く光って…」
「そうか!!教団本部のある場所だ!!」
『その通り。教団本部には、この世界で最も強力で教団にとってなくてはならないアーティファクトが眠っている』
「!!俺の先祖のワイギヤが天から授かったという、魔法の杖!」
『ご名答。教団の始祖ワイギヤは、その杖を使って世界から際限なくあふれ出る魔力を星の海へと返していた』
「でも、今はそれを星の海に返すことなく、教団内部でのみ利用している…」
『世界各国で頻発していた魔力争奪戦争を止めるためにしたことが、逆に今は教団による世界の支配を推し進めてしまっている。これをあるべき姿に戻すことができるのは、ワイギヤとクレスの子孫である、アコードとアルモしかいない』
『教団本部に封印されていたアーティファクト『光の盾』を教団が狙ってきた以上、他の支部が狙われない保証はどこにもない。君たちには、可及的速やかに支部を巡り、アーティファクトを回収してもらいたい』
「教団本部にある『ワイギヤの杖』は、どうすれば良いのかしら?」
『総帥のみが継承してきた伝承によれば、ワイギヤの杖の威力と、クレスの身に着けていた全武器防具の威力は拮抗していたようだ』
「つまり、俺の先祖の杖を手に入れるためには、アルモの先祖の武器防具を全て集めて対抗する必要がある、ということか」
『その通りだ。教団がワイギヤの杖の能力を全て使いこなしているとは到底思えないが、万が一ということもある。支部を全て巡りクレスのアーティファクトを全て手に入れた後、教団本部に乗り込んでワイギヤの杖を奪還するのが良いだろう』
「『急がば回れ』ってことだな…」
『支部巡りを始める前に、君たちには大変申し訳ないが、もう一度アルモのテレポーテーションで本部に戻ってきてもらえないだろうか?旅立つ前に、渡したいものがある』
「分かった」
「テレポーテーションの魔法は、今日はもう使えないから、明日でいいわよね?ザイール…」
『ああ。それで問題ない。さすがの私も、そろそろ休息を取りたいしな』
「それじゃザイール。また明日」
『皆も、ゆっくりと休んでくれ。フォーレスタの村長殿、よろしく頼みます』
「総帥殿。お任せを」
“フゥゥゥン…”
***
“バタン” 部屋の扉を開けると、パンの焼ける香ばしい匂いが辺りを包み込む。
「きっと、おば様が待っているわ」
「そうだな。急ごう」
“パタパタパタパタ…”
「おはようアコード!それにアルモ。ゆっくり休めたかい?」
「ああ。やっぱり寝慣れたベッドで睡眠をとるのが一番だな…」
「アルモも大丈夫かい?」
「はい。昨日までの疲れが嘘のように取れました」
「そうかい。それは良かった」
“ザク…ザク…ザク…”
“ジュー…”
台所から、手際よく食材が切られ、火にかかったフライパンにそれが落とされる音が聞こえてくる。
それから数分もしないうちに、テーブルは母さんが作った朝食で一杯になった。
「さぁ、召し上がれ。シューとサリットも直に来るだろう」
「いただきます」
「はい、遠慮なくいただきます」
「…こうやってアコードと朝ごはんを食べるのも、随分と久しぶりな気がするねぇ」
「母さん…またしばらく家を空けることになるけど…」
「…」
「私のことは気にしなさんな。アコードには申し訳ないと思うけど、フォーレスタ一族からの使命から解放されたお陰か、最近は体の調子も良いんだ。そんな私が言うのも可笑しいことかも知れないが、我が一族の使命を全うするため、世界をあるべき姿に戻すため、アルモと協力して事に当たって欲しい。それに、今は出払っているけど、お前の兄弟たちもいるしね」
「分かったよ、母さん」
「おば様…私にできる最善を尽くします」
「アルモも、ありがとう!さぁ、冷めないうちに、早く食べておくれ」
“トントントン…”
「…シューとサリットね!」
「私が出よう。2人は朝食を!」
こうしてシューとサリットも合流し、腹ごしらえをした後、母さんから手渡されたザイールへの陣中見舞いを手に、俺たち4人は同盟本部へと移動したのだった。
第2話 へ続く