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剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode8「聖遺物を求めて」 第10話 〜起動〜

“…アルモ様にアコード様。大変失礼致しました”

 大きな通信鏡?に写るステラが、深々と頭を垂れる。

「気にしないで!」

「ああ。気にすることはない!」

“お二人の姿が、あまりにも若かりし頃のクレス様とワイギヤ様に似ていたものですから…”

「アルモがクレスに似ているってことは、クレスは美形男子だったんだな」

「そうね…って!?」

 俺の言葉にアルモが顔を赤くし、ステラと同じ位頭を垂れる。

“……時系列的に、今はクレス様の時代から約数千年前後の時が流れているようですね”

「そんな膨大な時が経過しているというのに、この船はつい最近作られたかのように見えるけど…」

“はい。この船は、クレス様の時代の文明により生み出された黒誠銀(ブラックミスリル)で製造されています。ブラックミスリルは、同じミスリルの中でも最高強度と最軽量を誇り、どんな負荷がかけられても、無傷の状態を保つ特性があります”

「なるほど。だから、新品同様の状態に見えるという訳か」

“……………システムエラー……ネットワーク環境損傷大……高度セキュリティ領域への接続拒絶……アクセスできません……”

「ステラ…どうしたんだ?」

“アコード様…失礼しました。私とこの船が封印されていたこの数千年の間に何が起こったのか、それを調べてみようと思ったのですが、時間の流れと共に世界に張り巡らせられていたネットワークという環境が破壊され、調べることができなくなっているようです”

“唯一、ネットワークが残されていたのは、ここから南部にあるクレス様がお作りなった組織の本部と、世界各地にある支部を繋ぐもの。そして世界の中心にある高山にあるものだけだったのですが、高山の方は私にも解読できない高度なプロテクトがかけられていて、アクセスすることができなかったのです…”

「世界の中心にある高山と言えば…教団本部があるセントギア山だな…」

「高度なプロテクト…つまり、教団本部の情報には、ステラは入り込むことができないって訳ね」

“はい。その通りです。クレス様がお作りになった組織…三日月同盟のネットワークに残されていた情報を頼りに、この数千年間で起こったこの世界の歴史を把握致しました………今、この世界を支配しているのは、ワイギヤ様がお作りになった教団…でお間違いないのでしょうか?………”

「ああ。間違いない」

“やはり、クレス様が心配なさっていた通りの未来になってしまった、という事なのですね…”

 ステラの表情が曇る。

「ステラ…俺たちは、そんな教団から世界を救うために、ここまで来たんだ!」

“……世界の魔力の流れが、セントギア山に集中しているということは……ワイギヤ様やクレス様のご遺志を無視して、教団が魔力を占有している、ということなのですね…”

「だから、私たちはこの船の力を借りて、三日月同盟の各支部に残された聖遺物(アーティファクト)を回収し、教団に立ち向かうための力を得る必要があるの!」

「ステラ…力を貸してくれ!」

“力を貸すもなにも…この船はクレス様の…いえ、そのご子孫であるアルモ様のものです。私共々、どうぞご自由にお使い下さい!!”

「ありがとう、ステラ!」

“では、漆黒の翼…再起動します!!”

 俺たち5人が座る椅子の、背もたれの右側の付け根付近から帯状のものが姿を現し、それぞれの体系に合わせた長さとなり、左側の付け根付近に繋がって身体を固定させた。

“ゴゴゴゴゴゴゴゴ…”

 どこからともなく、激しい機械音が室内に木霊する。

 そして、目の前の大きな通信鏡?に映っていたステラが姿を消した。

「…ステラ!!大丈夫なの!?」

“モニターから突然消えてしまい、申し訳ありません。船体を浮上させるのに集中するため、一時的に私の姿が見えなくなっただけですので、ご安心下さい”

 俺たちの目の前にある大きな通信鏡は、どうやらモニターというらしい。

 突然姿を消したステラに驚いた俺たちだったが、その数秒後にはこの世のものとは思えない程の美しい景色を見ることになる。

「……ここは…この船が封印されていた施設の上空か!?」

“アコード様…その通りです。現在、漆黒の翼は上空約1万フィート(約3000m)にいます”

「…確か、この船の姿って周囲から見えないようになっているのよね…ステ何とかって機能で」

“サリット様のおっしゃる通り、この船はステルス機能によって、周囲からは見えない仕様になっていますが…皆様、この船をどこに向かわせればよろしいでしょうか?”

「三日月同盟の支部を回らなきゃならないってことは分かっているが、どこから回るかまでは決めていなかったな…」

“ピピピ…ピピピ…”

 どこかで聞いたことのあるような音が、船内に響き渡る。

「この音は…本部から俺の家の通信鏡に通信が入った時の音だ!」

“…どうやら、三日月同盟本部からの通信のようです。繋ぎますか?”

「きっと、ザイールからの通信だわ」

「ステラ!繋いでくれ!!」

“かしこまりました”

 次の瞬間、モニターが同盟本部に切り替り…

『…漆黒の翼の乗組員が、君たちで本当に良かった!!』

 そこには、安堵の表情を見せるザイールの姿が映し出されたのだった。


第11話 に続く