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剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode8「聖遺物を求めて」 第12話〜グエンの街〜

『タマーン大陸の支部には、どうやら『月明りの兜』が封印されているらしい』

“ですが、本部からの応答に、タマーン支部からの返答がないそうです…”

「それって、つまり…」

「…支部が乗っ取られている、或いは壊滅されている可能性が高い、ということね」

『まずは、支部から徒歩で1時間程度のところにある、グエンの街で情報収集するのが良いだろう』

“ネットワークが崩壊している今、私や本部の探査能力はごく限られたところでしか使えなくなっています。故に、情報は足で稼いでいただくしかありません”

「それなら、機械音痴の俺でも、アコード達の助けになれるって訳だ!」

「…自慢になるようなことじゃないけどね…」

 タマーン大陸に到着した翌朝、司令室(大きなモニターのある部屋を、こう呼ぶらしい)で状況を確認した俺たちは、グエンの街近くにある山中に漆黒の翼を停泊させると、地面へと降り立ち、数十分後には街の入り口に到着していた。

「…それじゃ、ここからは別行動にしよう」

「ザイールの話では、この街に宿屋は1件しかないらしいから、私とアコードは宿で部屋を取った後、情報収集に入るわね」

「じゃあ、俺とサリットは宿屋とは反対の方面をあたってみる」

「レイスはどうする!?」

「私は、この街を裏側から探ってみる。裏の世界にしか分からないことも、たくさんあるだろうからな」

「みんな、気をつけてね!」

「日が沈んだら、宿屋に戻ってくること。それでいいな」

「「「「了解!」」」」

 こうして俺たちは3方向に分かれて、情報収集を始めた。


***


「二人部屋を2つと、一人部屋を1つだね…食事はどうする?」

「今日の夕食と、明日の朝食をお願いできないかしら?」

 俺とアルモは、グエンの街に一軒しかないという宿に足を運んでいた。

「…部屋と、2回分の食事は確保できたわ………どうしたの!?」

 受付から少し離れた場所にいる俺の所に来たアルモに、入口の一角に宿が用意している椅子を見るよう、黙って指差した。

 そこには、ボロボロの服を着て、視線を一転に集中させたうつむき加減の老人が腰かけていた。

「…ちょっと、尋常じゃないような気がするんだ…」

「確かに…」

 アルモはきびすを返すと、宿屋の従業員に尋ねた。

「すみません…あそこに座っている人……何かあったんですか?」

「あぁ…あの人はうちの常連で、お金持ちのお坊ちゃんなんだ…」

「えっ!?」

 アルモが『おいでおいで』のしぐさを俺に向ける。

“スタスタスタスタ…”

「アルモ…どうしたんだ!?」

「君の推理は正しかったわ。あの人、確かに尋常じゃない…」

 従業員から、アルモにしたものと同じ説明を受ける俺。

「…つまり、あの人は老人じゃなく、俺たちよりも少し年上位の人だと…」

「ああ。ここから徒歩で1時間程度のところに『月明りの丘』という、月見には最高の場所があってな。数日前、あの人もそこに行ったんだ…」

 その時だった。

 俺たちの会話が耳に入っていたのだろう。老人に見える金持ちの子息が奇声を発しながら、俺たちに警鐘を鳴らす。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!『月明りの丘』に行ってはならぬ!行けば、死の雨が降り注ぎ、私と同じ目を見ることになるだろう!!きぇぇぇぇぇぇ!!」

 俺とアルモが従業員に目をやると、目を瞑り、首を横に振る。

「その丘から帰ってきてから、ずっとあの有様さ…」

「あの人が、月明りの丘に行った数日前、その場所では本当に何かあったんですか?」

「それがな…生きて帰ってきたのはあの人だけだったようで、その日に何があったのかは結局分かっていないらしいんだ。はっきりしているのは、月明りの丘に大小さまざまな穴が無数にあいたことだけさ」

「無数の穴、ね…」

「あの人の心が、あそこまで壊れてしまうような出来事が、月明りの丘であったに違いない。丘の名前も「月明りの丘」だし…俺たちも、街で聞き込みをした方が良くないか?」

「そうね。アコードの言う通りだわ……ねぇ店員さん。この街で情報を集めるとしたら、どこに行ったら良いかしら?」

「…あんたら…まさか本気でその件を調べるつもりじゃ…」

「そのつもりだけど!?」

「…なら、この宿から徒歩で10分位の場所に、情報通が集まる酒場がある…」

 従業員がどこからともなくこの街のマップを取り出し、更に書くものを拾い上げると、大きなまるを描き、マップを差し出す。

「このまるの辺りにある酒場だ。目立つ看板があるから、行けば分かると思うが…」

「…思うが?」

「いや…その情報通たちってのが、ちょっと曲者でな…新参者であるあんたらに、簡単に情報を流すとは、ちょっと思えなくてな…」

「心配してくれてありがとう!!でも、私たちは大丈夫よ。ねぇ、アコード」

 片目をウインクし、俺に返事を促すアルモ。

「えっ!?…まぁ、その……大丈夫…かな!?」

「ならいいが…くれぐれも、無茶だけはするなよ!お前さん方は、大切なお客様だからな!」

 こうして俺とアルモは、曲者の情報通が集まるという酒場へと向かうのだった。


第13話 に続く