本文へスキップ

剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode8「聖遺物を求めて」 第17話〜水銀将軍クビラ〜

「はぁ…はぁ…」

「アルモ!本当に大丈夫か?」

「はぁ……大丈……夫…じゃないかも…」

 レイスが磔にされた十字架周辺の罠を見破るため、アルモは具現化した鼠に何かあっても術者に影響の出ない『アオーフル』を発動させ、鼠を複数体、俺たちの周辺に放った。

 以前、レイスがフォーレスト城で発動させた『アオーフ』は、具現化した鼠に何かあると、術者にも影響を及ぼす魔法だった。

 今回アルモが発動させた『アオーフル』は、レイスのそれに比べれば安全である反面、数十倍の魔力を消費するのだという。

 そんな魔法を、一気に複数回使用したのだ。アルモが魔力不足で疲弊するのは、ある意味仕方のないことだった。

”カチャリ…”

 アルモが俺に寄りかかり、鎧と鎧のぶつかる音が小さい響き渡る。

「少し休めば元気になるから…それまで、君の背中を貸してもらえないかな…」

「ああ、構わないさ」

「鼠と周囲の様子は俺とサリットで見張るから、アコードはしっかりアルモを休息させてやってくれ!」

「りょーかい!!」

”チュウチュウ……チュウチュウ……”

 まるで本物のような鳴き声をあげながら、アルモが作り出した魔法の鼠が周囲を歩き回る。

 そして、それはほんの数秒後に訪れた。

”バン……バンバンバンバン”

 鼠が歩き回っていた周辺で、突然、しかも同時に大小様々な爆発が起こり始めた。

 そして、爆発により乾ききった丘の砂が舞い上がり、周囲は砂塵に覆われた。

「みんな!目を瞑るんだ!!砂が目に入ったら、敵から攻撃されても分からないぞ!」

 俺は皆にそう告げると、自身とアルモの瞳を、両腕を使って守る体制をとる。

 そして…

”スタッ”

 俺は異様な殺気を感じ取ると、咄嗟に目の前で疲れ果て動くことのできないアルモを抱きかかえ、数歩後ろへと退いた。

”ブゥン”

 俺の勘は的中し、俺とアルモがいたその場に、何者かが放った一撃が空を切った。

「あの剣は………大剣クレイモア!それを操り、そしてこの大小さまざまな爆発を起こせる者………それは、ワイギヤ教軍にただ一人……」

「あぁそうさ!ソレイユとリュンヌは殺(と)り逃したが、まぁいい。クレスの子孫、アルモよ。他の将軍の敵、ここで取らせてもらうぞ!」

 砂塵の間から見えたその将軍は、長身のすらっとした体形で、セミロング位の長さの銀髪が風で靡いている。

 そして、ところどころに銀色の玉が描かれた、見たこともないマントを羽織っているようだ。

 気のせいだろうか。その銀色の玉が、銀髪と共に靡いているマントの中を、まるで生き物のように動き回っているように見える。

「メルクーリュスのクビラ……私の生家を………私の大切な場所を破壊した将軍……」

 憎悪の念に包まれたアルモが、普段は絶対に見せないようなきつい表情で、目の前の将軍に恨み節を放つ。

「家の一つや二つ、良いではないか!お前の父と母を襲撃した際も、遺体を見つけることはできなかった。どうせ、生きているのだろう!?」

 クビラの言葉が途切れたと同時に、それまで晴天だった星空に、見たこともない色の雲が集まり出す。

「アルモ…あの雲は!?」

「間違いないわ。父さんと母さんとの闘いの時と同じ魔法を、クビラは発動させようとしているわ!」

「さすが英雄……いや、裏切り者の子孫だな!だが、我が水銀、どのように防ぐ!?」

「水銀と言えば…体に入るとさまざまな健康障害を引き起こす液体金属…」

「そう。そして、化学変化によって爆発を引き起こすこともできる…」

「体に取り入れてもダメだし、化学変化を起こさせるような状況も作り出してはダメ…ということか…厄介だな…」

「私に考えがあるわ。みんな、私の周囲に集まって!!」

 その言葉に全員がアルモの周囲に集まる。

「お仲間4人が集まったところで、我が水銀魔法は防げまい!俺の水銀を、鱈腹味わうがいい!」

「風の精霊シルフよ…その清らかな風を我が周囲に吹かせよ!」

 クビラが言葉を言い切るのと同時期に、アルモが魔法の詠唱を終わらせ、2人の魔法が同時に放たれる。

”メルクーリュス!!”

”アネモス!!!”

 刹那、クビラが呼び出した紫の雲から銀色の雨が降り出した。

 一方、俺たちの周辺にあった紫の雲は、アルモが放ったアネモスという風の魔法の力によって離散した。

「ほほぅ。親と同じ轍は踏まないという訳ですか…だが、これならどうかな?」

 クビラがそう言った瞬間、離散せず残っていた紫の雲より降り注いでいた銀色の雨が突然止んだかと思うと、白い粉へと変化したのだ。

「お前たちが力を蓄えていくのを、我々が指をくわえて見ていただけとでも思うたか!?」

 クビラがそう言い放ち、右手を天に上げると、それを俺たちに向かって振り下ろした。

 宙に浮いていた銀色の雨から変化した白い粉の全てが、俺たちの集まる場所に向かって急接近してくる。

「アルモ!!俺たちはどうすればいい!?」

 急接近してくる白い粉により何が起こるのか、アルモ以外の3人は分かるはずもなく、俺はアルモに所作を問うた。

 だが、クビラがやろうとしていることを予見していたかのように、アルモは次の魔法を放とうとしていた。


第18話 に続く