原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode8「聖遺物を求めて」 第2話 〜解除された封印〜
「…これは?」
「ここから北にある、グルン山脈に隠された魔道船を格納してある場所の鍵さ」
「「「「魔道船!?」」」」
俺たち4人は、アルモの魔法で再び同盟本部に到着していた。
ザイールは、昨夜十分な休息が取れたようで、通信鏡に映し出されていた疲れの色が、幾分消えていたように感じた。
本部内でザイールと合流すると、まず渡されたのが小さな手鏡サイズの通信鏡だった。
この通信鏡は、フォーレスタにあった母さん所有のものとは異なり、本部からの通信を待たずとも、こちらからも本部に通信ができるというものだった。
そしてもう1つ、船のような形をした彫刻を受け取ったのだが…
「ザイール!魔道船って一体…」
「魔法の力を使って動く、空飛ぶ船さ」
「空飛ぶ船だって!?」
「…確かに、三日月同盟に伝わる伝承の中に、そんなものがあったような気もするけど、実在するなんて…父さんと母さんからは、何も聞いていないわよ!?」
「そりゃそうさ。魔道船の存在は、俺ですら昨日の夜まで知らなかったことなのだから…」
「…総帥にのみ伝わる同盟の秘密の一つ、という訳か…」
「そういうことさ。これは、推測の域を出ない話なんだが、教団は恐らく魔道船のことを知っている…」
「どうしてそう思うの!?」
「今回、教団は『月明りの盾』を狙って、教団本部に強襲を仕掛けた」
「それは、アーティファクトが教団にとって邪魔な存在だから、回収しようとしただけなんじゃ…」
「だったら、なぜ教団は支部を先に襲わない!?」
「「「「!!!」」」」
「これも推測だが、教団は恐らく支部の大まかな場所も大体把握していると考えられる。前総帥の記録によれば、支部から『教軍兵との戦闘』や、『支部周辺での目撃情報』が報告されているんだ。支部の方がメンバーの数も少なく、落としやすいはず。それを、多大な犠牲を払う可能性か高い教団本部を、なぜ優先的に襲う必要があったのか…」
「そこに眠るアーティファクトが、教団にとって最も厄介な存在だから…」
「そういうこと。即ち、アルモが持つ『月明りの剣』と『盾』が、魔道船を動かす鍵なんだよ」
「この剣と盾が、魔道船を動かす鍵…」
「教団にとって、伝承に出てくる魔道船が現実のものとなってしまったら、厄介以外の何物でもないと思わないか?」
「確かに…」
「故に、その鍵となる盾だけでも回収・破壊しようと試みたのではなかろうか?」
「で、その教団にとって厄介な『魔道船』を手に入れるためのアーティファクトが、今私たちの手元に揃っている…」
「…だったら、意地でも魔道船を手に入れて、教団を出し抜いてやろうぜ!」
「…最近のシューって、らしくない『良いこと』を言うようになったと思わない?」
「おいおい!『らしくない』って、どういう意味だよ!」
「どうもこうも…そういう意味だけど!?」
「サリット!!」
「はははは。『喧嘩するほど仲が良い』とはよく言ったものだな…ちなみに、アルモ達も喧嘩するのか!?」
「えっ!?」
「ちょっ!?」
唐突のザイールからの投げかけに、俺とアルモは赤面し、同時に下を向いてしまう。
「…私の辞書に追加しておくとしよう。『喧嘩する必要もなく仲が良い』という言葉を」
「ザイール!!」
こんな冗談を交えた会話をしながらも、俺たちはザイールに魔道船が隠された場所のことや、その内部のことを詳細に聞き出した。
魔道船は、ここから数キロ北上した山中にある、今は使われなくなった三日月同盟の施設にあるのだという。
その存在は、国家は愚か三日月同盟においても総帥にしか伝承されて来なかった上、必要となる時が訪れない限り封印は解かれないのだという。
「クレスの子孫、つまりアルモが月明りの剣と盾を両方手にした時、魔道船を隠した施設への入口の封印は解かれることになっている」
「…それをいち早く察知した教軍に、その施設が占領されないとも限らない、という訳か…」
「魔道船には、月明りの武器防具にかけられたのと同じ古代の強力な魔法がかけられている故、破壊されることは考えにくい。だがしかし、施設が占領されれば君たちを施設で待ち伏せし、亡き者にしようと企てる可能性も高い。私も一緒に行きたいところだが、教団本部の再建も急がなければならない故、君たちだけで魔道船の隠し場所まで赴き魔道船を手に入れてくれ!」
「…でも、魔道船って、空飛ぶ船なわけでしょ!?そんな大きなものがこの近くまで来たりしたら、グルンニードの住民が混乱するのではないかしら?」
「心配無用だ。魔道船にはステレス機能が備わっていて、飛行中は敵の目視を欺くために無色透明になるそうだ」
「それならば、手に入れた後も安心ね…」
「魔道船を手に入れ、支部巡りをしてアーティファクトを回収した後、ワイギヤ大陸の教団本部に侵入し、集めたアルモのアーティファクトの力でワイギヤの杖を奪取する、というのが今
考えられる最良手という訳だな!!」
「そういうことさ。昨日の今日で疲れているとは思うが、どうにか頑張って魔道船を手に入れ、またここに戻ってきてくれ!」
こうして俺たち4人は魔道船を手に入れるため、隠されているというグルンニード北部の山中に足を踏み入れたのだった。
第3話 へ続く