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剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode8「聖遺物を求めて」 第3話 〜待ち伏せ〜

 アコードら4人がグルンニードの山中にあるという、魔道船が隠された三日月同盟の施設に向かおうとしていた、その頃…

“ギギギギギギ…”

 重い石の扉が、音を立てて横にずれる。

「…パジラ様、ラジマ様…うまくいきました。古の船へと続く扉の封印は、やはり解かれていました」

「ご苦労!」

「パジラよ。奴らは、ここに来ると思うか?」

「ラジマよ。教祖様の予言が、未だかつて外れたことがあるか?」

「まぁ、そうなんだが…ヴァジュラの件は…」

「ラジマ!ヴァジュラの生死について、教祖様は予言などしておらぬぞ!?」

「…いや、『仇敵の総本山が運命の分かれ目』とおっしゃっていた。これは暗にヴァジュラの死を予言していたのではないのか?」

「バカを言え。『運命の分かれ目』…即ち自らの選択により生死が決まるということだ!ヴァジュラは、そこをはき違え、十分な準備を怠ったのだ。故に、奴は…」

「確かに…であるならば、我らに下された予言も…」

「そうだ。だから奴らは必ずこの場所に来るし、我らも気を抜くことなく準備を進めねばならぬのだ!」

「…違いない!」

「我が屈強なるワイギヤ教軍の兵士たちよ。兵団長の指示通り、抜かりなく準備を進めるのだ!この場所を、教団に仇成す者共の墓場にするのだ!!」

「「「「「オオオオ!!!」」」」」

「クレスの子孫とその仲間達よ…首を洗って来るがよい!!」


***


「…それにしても、こんなところに三日月同盟の施設なんて、どうやって建造したんだろうねぇ…」

「古代の技術は、現代に残された技術では計り知れないものよ…」

「いや…その当時はこの周辺は森なんかじゃなくて、実は民家がたくさん並んでいる土地だったのかも知れないだろ!?」

「…いまのこの様子からは、想像もできない話ね…」

 俺たち4人は、魔道船が隠されているという、今は使われていない三日月同盟の施設に向かい、歩を進めていた。

 ザイールに再び別れを告げ同盟本部を出た後、英気を養うため一度グルンニードの宿で一晩過ごし、その後同盟の施設に向けて出発した。

 ところが、グルンニードを出てから3日が過ぎても一向に目的地には到着せず、代り映えのしない森の景色が続いていたため、俺たち4人はいい加減飽き飽きしてきたところだった。

 そんな中…

「ねぇ!!あれって…」

 アルモが何かを見つけ、指を指している。

 その方向を確認すると、ぼんやりとではあるものの、何か建物らしいものが見えていた。

「見た感じ、まだまだ先のようだけど、きっとあれが目的地に違いない!」

「グルンニードの宿を出て、もう3日が経ったわ。目的地もはっきりしたことだし、少し急ぎましょう!」

「そうだな。こうしている間にも、魔道船を隠した施設を教団が発見してしまっているかも知れない!」

「…その施設に行く手前に、罠が仕掛けられていることも考えられるわ。急ぎつつ、何かおかしなところがあれば、慎重に進んだ方が良くない?」

「サリットの意見も一理ある。みんな、注意深く周囲を観察しながら、急ぎ足で歩を進めよう」

「「「了解!」」」

 アルモが建物の姿を捉えてから数時間が過ぎ、ぼんやりとしていた建物の輪郭がかなりくっきりと見えてきたその頃、周囲に異変が現れ始めた。

 最初にその異変に気付いたのは…

「ねぇ、ちょっと待って!」

“ザザッ”

 サリットの言葉に、全員の足が止まる。

「どうした?サリット…」

「…ねぇ、確か魔道船が隠されている施設って、使われなくなって相当時間が経っているはずよね!?」

「ええ。ザイールの話では、それこそ私のご先祖様が魔道船を封印したその頃から使われなくなったそうだから、何百年って単位になるんじゃないかしら?」

「…だったら、この辺りに獣道以外の道があったりしたら、おかしいってことよね?」

「確かにそういうことになるが………あっ!?」

 これまでは、うまく隠されていたのか、何かの魔法が施されていたのか、俺の目には獣道以外は映らなかったのだが、サリットの指摘を受け周囲を注意深く見渡すと、不自然に生えそろった俺たちの背丈ほどの植物が目に入ってきた。

「生まれも育ちも森育ちの俺たち3人なら納得できる…この辺りの草花たちの生え方は、あまりにも不自然過ぎる…」

「えっ!?私には、普通に植物が生い茂っているようにしか見えないけど…」

 アルモが眉間にしわを寄せ、首を傾げる。

「この植物は、この時期に、しかもこんなに寒い場所で、こんな生え方はしないんだ。ここがフォーレスタの森だったら、確かにこういう生え方をするんだろうけど…」

「こんな北の大地に、この植物がこんな生え方をするのは異常とか言えないわ!」

「アルモ…俺は魔法が使えないから分からないけど、魔法を使って本来その地域では生えることのない植物を生えさせることなんて可能なのか?」

「それは、可能だわ………確かに言われてみれば、この植物は文献で読んだ、植物を生えさせる魔法で生えさせることのできるものだわ!!」

「それじゃあ…」

「ええ。この先に敵の待ち伏せがあると考えた方が良いわね…」

 その時だった。

「バレちゃ仕方ねぇなぁ…」

「俺の青龍刀と、パジラのグレートソードの落とし前、ここでつけてもらおうか!?」

「お前たちは…」

 そこに現れたのは、フォーレスタ村からフォーレスト城へ行く途中で出くわし、俺とアルモの攻撃により退却したパジラと、ガイーラと入れ替わりフォーレスト城で俺とアルモ、そしてレイスと戦ったラジマだった。


 第4話 へ続く