原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
Episode8「聖遺物を求めて」 第6話 〜将軍の末路〜
「ハァァァァァァァァ!!」
シューはカットラスの鋭利な切っ先をラジマに向け、一直線に突撃した。
刹那…
“ザシュ”
「???」
うずくまるラジマの身体に深々と突き刺さるはずだったシューの攻撃は、カットラスが身体に触れる直前に発動したラジマのシャドウザバンドによって空を切った。
“ザザザザザザザザ…”
突然なくなった抵抗に、シューはバランスを失いそうになりつつも何とか堪えて態勢を立て直し、光の粒となって離散したラジマの方向を見た。
シューの攻撃で離散した光の粒は、シューが振り返った時にはラジマの人型を成そうと、元の場所に戻りつつあった。
「(…全て計画通りだ。今のラジマには一切の攻撃が利かないが、光の粒子から実体に戻ったその時、サリットの攻撃を命中すれば…)」
光の粒がどんどんあつまり、ラジマの身体を成していく。
そして、その光がより一層神々しく輝いたその時…
「サリット!今だ!!!!!」
“ヒュン!ヒュン!”
私の合図で、サリットが短曲剣(マインゴーシュ)をラジマに向けて放った!!
ところが…
“シュン…………シュン………”
「!!?」
「私のマインゴーシュが…すり抜けた!?」
「そんな馬鹿な!?私の合図は完璧だったはず…なのに、何故…」
光の粒となったラジマの口元が開かれる。
「先ほどお前は『いつまでも過去に囚われるのは愚かなこと』という教団の教えを我に説いたな!その言葉、そっくりそのまま返してやろう。お前が成長したように、我もあの時のままだと思ったら、大間違いだ!!」
そう言い切ると、ラジマの体は光の粒子から実体化し、元の姿に戻った。
そして、次の瞬間…
“グサッ!!”
「!?」
ラジマの胸元から、銀色に輝く湾曲した刀身が姿を現し、その切っ先から血が滴り落ちる。
「…飛んでくる短刀の攻撃は避け切ったはず。ならば、これは一体…」
「敵は3人居たことをお忘れになったようですね、将軍様!!」
“ザシュ” “シャーーー!!”
ラジマの背中から胸元まで貫通したカットラスを、シューが勢いよく抜き去り、傷口から激しい鮮血がほとばしる。
「…将軍である我が……尊き神の軍団を束ねる我が…こんな者たちに敗れるとは…」
「ワイギヤの将軍よ…安らかに眠れ!!」
“シュンシュンシュン!!”
“ヒュンヒュン………グサッ!グサッ”
私が銀細剣(シルバーレイピア)でとどめの一撃を繰り出すと同時に、背後からサリットがマインゴーシュでダメ押しの攻撃を放つ。
「…無念!!!」
“ドサッ”
こうしてラジマは、私たち3人の連携プレイの前に敗れ去った。
一方、パジラと対峙していたはずのアルモとアコードの方に目をやると、二人は私たちよりも早く戦闘を終えていたようで、私たちに向かって手を振っていた。
***
「フォーレストで私たちと戦った時、剣が刃毀れを起こしただけで教団に逃げ帰ったのは、どこの誰だったかしらね!?」
「ほざけぇぇぇぇ!!!!」
“ドンドンドンドン…”
シュー・サリット・レイスの3人がラジマとの戦闘を終える数分前のこと。
俺とアルモは、俺たちが初めて共闘した際に使った作戦で、もう一人の将軍を倒そうとしていた。
俺たちの作戦にまんまとひっかかったパジラは、堪忍袋の緒が切れたのだろう。その巨体を揺らしながら、こちらに突進してきた。
「来るぞ!アルモ!!!」
「ええ。あの時の決着、今こそつけさせてもらうわ!!」
“ザザッ”
憤怒して冷静さを失ったパジラに向かって、俺とアルモは同時に地面を蹴った!!
そして、あの時と同じ作戦を実行するため、走りながら俺が先行を取る。
「まずは黒髪!お前からだ!!!!」
“ブゥン!”
“ギィン!!”
パジラのグレートソードの攻撃を、すんでのところで受け止める。
前回、フォーレスト城に向かう途中でこの将軍と対峙した際は、この時点でパジラの操るグレートソードが刃毀れを起こし、形勢が不利と判断したパジラが一方的に退却したのだった。
だが、今回はというと、魔力が込められた俺のショートソードで受け止めたグレートソードに、刃毀れを起こした様子が全く見られない。
「…我の操る武器が壊れないことに、疑問の色が隠せないようだな!そうさ!!我のグレートソードにも、教祖様に魔力を込めて頂いたのだ」
「何だって!?」
「お前たちの動きから、いずれ我とラジマがお前たちと対峙することになるのは分かっていた。だから、この時のための準備を進めておいた、という訳だ」
“ブウォン!”
“ドガッ”
ショートソードで攻撃を受け止めていた俺ごと、パジラはグレートソードを使って力任せに押し飛ばし、俺は数十歩先にあった大木に背中から激突した。
「グゥハッ…」
「アコード!!!」
意識が朦朧(もうろう)とする中、悲鳴にも似たアルモの声が聞こえてくる。
視線を落とすと、地面に生えた草が真っ赤に染まっている。
どうやら、大木に激突した際に相当吐血したらしい。
「……ア……」
声にならない声でアルモに呼びかけるも、俺の声は届かない。
だが…
“ザザッ”
「やめなさい!パジラ!!!」
朦朧(もうろう)とした意識の中で、俺の瞳に映ったものは、俺の前で仁王立ちし、髪の毛が重力に逆らって上空へとなびいているアルモの姿だった。
「(…打ち所が悪かったんだな…これは幻覚に違いない…)」
「アルモ!お前の命令を聞く云われはないわ!!」
そんなことを思っていると、アルモの制止を無視して、パジラが襲い掛かる。
「(…アルモ……俺に構わず、逃げてくれ!!!)」
その時だった。
突然周囲が眩い光に包まれると、アルモの横に人影が現れた。
緑色の長い髪の間から、先のとがった耳が見える。透明だが、中まで透けて見えない不思議な素材でできたローブに身を包み、右手に矢、左手に弓を携えている。
その姿は、異次元の森に住むというエルフ族そのものだった。
「…そ………その精霊は…………リョースアルヴ!!」
「私を怒らせたことを、後悔しなさい!!!」
『…私の友人に祝福を!…下賎の者に災いを!!』
「やっ…やめてくれぇぇぇぇ!!!」
“……………”
“ピカッ!!”
リョースアルヴが天に向かって両手を広げ、短い詠唱を終えると、周囲を眩い光が包み込んだのだった。
第7話 に続く