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剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode8「聖遺物を求めて」 第8話 〜古代の仕掛けと魔道船〜

「…どういうことだ?扉が開いているぞ!?」

 魔道船が封印されているという三日月同盟の施設は、立派なレンガ造りの建物で、扉も重い石英で作られているようだった。

 ワイギヤの2将軍を倒して無事にその施設に到着した俺たちだったが、早速その扉が開いているという事象に、疑念を抱くはめになった。

「アルモ、これは一体…」

「私もこの施設について知ったのは、本部でザイールさんから聞いたのが初めてだったから、扉が開いていることについては、何も分からないわ」

「…レイスは、扉が開いていることについて、何か知らないか?」

「教軍に潜入していた際、確か兵士たちが言っていたな…『封印が解かれて、扉が開いた。指名手配犯よりも先に我々で制圧しなければ』って…」

「で、俺たちはこの建物に着く前に、二人の将軍と対峙した…」

「つまりは、この先に何かの罠が仕掛けられていても、可笑しくないということね」

「そういうことだな。ここから先は、今まで以上に慎重に進もう」

“コツコツコツコツ…”

 魔道船が封印されたとされるこの施設は、内部もレンガ造りになっていて、俺たちが先に進むたびに奏でる足音だけが、この空間に響き渡っていた。

「………敵さんは、姿を現さないな…」

「…アコード、油断は禁物よ。あれを見て!」

 サリットの指差した場所に、全員が視線を向ける。

 そこは、風化したレンガがたまたま砂場のようになっていて、無数の新しい足跡が残されていた。

「…確実に、ここ数日の間に、この場所を複数人の人間が通り抜けたようね」

「そのようだ。きっと、私たちに奇襲攻撃を仕掛けるため、この先で準備をして待ち構えているに違いない」

「ならば、こちらも警戒を解かずに進むだけだ」

 そして、何者かの足跡を発見してから数十分後のことだった。

“ピカーン”

「キャッ!!」

 等間隔に魔法のランタンが設置されているものの、少し薄暗い建物内で、いきなりアルモの月明りの剣と盾が眩い光を帯び、装備した当人が小さな悲鳴をあげた。

 そして、剣と盾から発せられたその光は、俺たち5人を包み込むと、全員を宙に浮かせ移動を始めた。

「…何が起こっているんだ!?」

「そんなこと、私に聞かれても…」

「おい!あれはなんだ!?」

「「「「!!!」」」」

 シューの言葉に全員が向けた視線の先にあるものを見て、場の雰囲気が凍りつく。

 そこには、無数の槍や弓矢で貫かれ無残な姿となった、おびただしい数のワイギヤ教軍の兵士と思しき遺体が散在していた。

 それを見た全員が、一瞬にして臨戦態勢を整えたものの、槍や弓矢等が飛来する気配は全くなかった。

「…と油断させといて、魔法での攻撃が始まるなんてオチはないよな…」

「シュー………サリットも、それは安心して。もし魔法で攻撃を仕掛けてくるなら、その詠唱の気配を私やレイスが見逃すはずないから」

「そして、今のところその気配もなさそうだ」

「…それを聞いて、安心したわ」

「これは推測に過ぎないのだけど、この剣と盾の封印解除が鍵となってこの施設の封印が解かれたというのなら、剣と盾を持たない者たちは魔道船に近づけないような仕掛けが、この施設に施されているのではないかしら?」

「なるほど。それなら、この惨状を説明するには十分だな」

「その剣と盾から光が発せられてなければ、俺たちも全員、あの兵士たちのようになっていたかも知れないって訳か…」

 シューが身震いしながら、顔を青ざめさせる。

「まだ、そうと決まった訳じゃないから、油断はできないわ。警戒を解かず、このまま進んでいきましょう」

 その後、『光に包まれては危険が回避される』を繰り返すこと数十回。俺たちは目的地である魔道船のドッグに到着した。

 そこには、数十人は乗り込めるであろう立派な帆船が鎮座していた。

“コンコンコン…”

 シューがおもむろに、扉をノックするように帆船の側面を叩いてみる。

 彼がそんなことをするのには理由があった。

「…見たことのない金属ね」

 アルモが呟いたように、この世界の帆船は、十中八九木製だ。

 だが、目の前の帆船は、見たことのない黒い金属で作られていたのだ。

「…母さんから、聞いたことがある。今思えば、ワイギヤやクレスが活躍した時代のことだったのだろうけど、古代にこの世界には超文明が栄えていた。そこでは、さまざまな色をした『誠銀(ミスリル)』が作られ、人々の生活に役立てられていた…」

「アコードは、この帆船の材質がミスリルだって言いたいの?」

「その可能性は、大いにあるだろうなって話さ」

「同盟にもミスリルに関わる話は少しだけ伝えられているわ。非常に軽くて丈夫な金属だって」

「こんなに大きな帆船を魔法の力で浮上させるのだから、金属で製造させているのだとすれば、ミスリルのような超文明の技術で製造された金属でないと無理だろう」

“プシューーーーーーー”

 偶然にも、シューが軽く叩いたところのすぐ横に、それまで認識することのできなかった扉の形が現れ、その隙間から蒸気と思しき煙が勢いよく噴き出している。

「おっ…俺のせいじゃないぞ!」

「シュー、そんなに慌てないで。ほら!」

 アルモが剣と盾をシューに見せる。

「剣と盾が、また光っている…」

「恐らく、魔道船が私の剣と盾に反応して、入口を開いたのよ!」

「…そういうことか。俺はてっきり…」

「シューは、機械系が大の苦手だもんな!」

「アコード…それを今言うか!?」

「まぁまぁお二人さん。おふざけはその位にして…入口がアルモの武具の力で開いたんだ。早速中に入ってみようじゃないか!」

「レイスの言う通りよ!シュー」

「それもそうだな」

「…アルモ!」

「ええ。それじゃ!魔道船の中へ!!」

 こうして俺たちは、ワイギヤ教軍の待ち伏せに遭うことなく、魔道船の内部に進入したのだった。


 第9話 に続く