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剣世炸 novel site Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

Valkyrie of Moonlight〜月明りの剣と魔法の杖〜

原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸


Episode8「聖遺物を求めて」 第9話 〜漆黒の翼〜

 魔道船の中に入ると、それまでの薄暗いランタンの光とは一転、昼間の外にいるような昼光色の光に包まれた。

“おかえりなさいませ。ご主人様!”

「???」

「…今、誰か声を出したか?」

「アコード…いや、誰も出していない」

「それじゃ、いったい誰が…」

 戸惑っている俺たち5人に、更に追い打ちをかける事態が発生する。

“フォーーーーン…”

 遠くから、聞いたことのない音が聞こえてくる。

 音のする方向に目をやると、地面から少しだけ宙に浮いた椅子らしきもの5脚が、俺たちに近づいてきた。

「…何があるか分からないわ。各々油断しちゃダメよ!」

「分かっている!」

 宙に浮いた物体は、俺たちの前まで来ると、ピタッとその動きを止めた。

「…止まった、みたいだな…」

“ご主人様………それに、よく見ればワイギヤ様までいらっしゃるとは!今日は、とても喜ばしい日です!!”

「…ワイギヤ……って!?」

「アコード!!」

「ああ。間違いない。アルモをクレスと、俺をワイギヤと勘違いしているんだ!!」

“さぁ、ご主人様にワイギヤ様。それに仲間の皆様。椅子にお掛け下さい!!”

「…アコード…どうするんだ!?」

「アルモのことを…いや、クレスのことをご主人様と呼んでいる以上、敵やワナである可能性は限りなく低いだろう。椅子に座って、運んでもらおう」

 それぞれが立っていた近くの椅子に腰掛ける。

 宙に浮いているせいか、座った瞬間フワッとした感触が全身を走り抜ける。

“移動中は、肘掛にしっかりとおつかまり下さい!”

 全員が椅子に腰掛けると、その椅子は低速で動き出した。

「…それにしても、古代文明の技術って凄いんだな…」

「そうだな…」

「何で、こんなに栄えた文明の技術が、今に遺されていないんだろうな!?」

「…もしかしたら、それにも教団が一枚噛んでいるのかも知れないわ…」

「アルモ!?何か知っているのか?」

「三日月同盟の伝承によれば、アコードが伝え聞いていたのと同様、古代には今とは比べ物にもならない魔法を中心とした超文明が栄えていて、人々は何不自由なく過ごしていた。でも、繁栄に欠かせない魔法の力を巡って、世界は対立し荒廃していった」

「だから、俺の先祖であるワイギヤが天から授かった杖を使って、魔力を星の海へと返すようになった、という訳か」

「ええ。でも、人って一度手にした力を、そんな簡単に手放さない生き物だと思わない!?」

「…確かにそうだけど…」

「だから、ワイギヤとクレスは、そういった争いの火種となるものを片っ端から教団に集め、処分ないし封印していったのではないかしら?」

「そして、この船はワイギヤの息子フォーレスタを連れて教団と決別する際、クレスが教団から持ち出したものの一つ、だとしたら…」

「壮大な推測だけど、一理あると私は思う」

「何もないところからする声の正体に、そのことを聞くのが一番手っ取り早いんじゃないか?」

「シューの言う通りね。アコードやアルモが、ワイギヤやクレスじゃないってことも言わなきゃならない訳だし」

 そんな会話をしている間に、俺たちの座る椅子は、ある壁の前でストップした。

“システム…………漆黒の翼の主にて管理者………クレスを確認……扉、開きます” “フウォーーン…”

 それまで繋ぎ目のなかった壁が、刹那のうちに扉の形状となり開く。

 と同時に、ストップしていた俺たちを乗せた椅子が動き出した。

「…これは!?」

「…とても大きな、通信鏡……かしら!?」

 到着した場所はとても大きな部屋らしい場所で、目の前には四角形のとても大きな通信鏡らしきものがある。

 そして、俺たちを運んでいた椅子は、シュー・サリット・レイスの3人を前方の左・中央・右に、俺とアルモを後方中央の全体が見渡せる高台に運んだ。

 それぞれに配置された机には、小さな通信鏡らしきものと、俺たちでも分かる文字がかかれた、たくさんのボタンが設置されている。

 見慣れないものばかりが集まったこの空間で、俺たち5人がキョトンとしていると、前方とそれぞれの前にある通信鏡らしきものが起動し、飲食店の給仕のような恰好をした女性が姿を現した。

“クレス様…そしてワイギヤ様とそのお仲間の皆様…漆黒の翼に、よくぞお帰り下さいました!”

「…あの…私の声が、聞こえるかしら?」

“クレス様!はい、よく聞こえております。それにしても…少しお若くなりましたか?それに、お召し物も少し変わったような…”

“それに…そちらにいらっしゃるワイギヤ様も、私の記憶ではお亡くなりになったはず…しかも、クレス様と同様にお若くいらっしゃる…”

「…その…君のことを、何と呼べばいいのか…」

“コードネーム ステラ。私はそう呼ばれておりましたが…それにしても、漆黒の翼の封印が解かれたということは…いつかお話されていた非常事態が発生したのですか?”

「その…非常事態は非常事態なのだけど…」

「ステラ…で良いよな。聞いてくれ。俺はワイギヤじゃないし、隣の女性はクレスじゃない!」

「この船が封印されてから…恐らく数千年の時が経っているわ。私はクレスの子孫でアルモ。そして隣はワイギヤの子孫でアコードよ!」

“……………え゛え゛っ!!!!!?”

 ステラは驚きの表情を見せ、その場に凍りついたのだった。


第10話 に続く