原案:剣世 炸/加賀 那月
著:剣世 炸
prologue
漆黒の闇に浮かぶ湖上に映し出された月明かりが、きらきらと眩しいほどに二人を包み込んでいる。二人はその湖面を眺めながら、肩を並べ語り合っていた。
「ねぇ、私を置いてどうしても行ってしまうと言うの?あなたが、あなただけが犠牲になる必要なんてないじゃない…」
「そうだな…」
小さな湖の先に浮かんでいる街の明かりに視線を置くと、男は続けた。
「だが…、ここで俺が行かない訳にはいかない。俺自身のためにも、そして、君と君との未来のためにも」
女の瞳には涙が溢れ、今にも零れ落ちそうになっていた。しかし、男の性格を誰よりも知っていた彼女は気丈に振る舞い、こう返した。
「…分かったわ。でも、約束して。私の元に必ず戻ると…」
女の性格を誰よりも知っていた男は、女の頭に手を伸ばし軽く撫でると、その場に立ち上がり誓った。
「誓うよ。必ず、君の元へ戻ると…。そして、俺が無事に君に元に戻ったら結婚しよう」
緊張の糸がぷっつりと切れ、女の頬が紅色に染まる。
「…はい。私は、ここで待っています。あなたが私の元へ帰る、その時まで」
数年後、男は約束を果たし、光り輝く剣と右肩にアザのある赤子と共に、女の元へと戻った。
女は男の帰りを心から喜び、男が連れてきた赤子を我が子のように育て、三人の幸福な時間は流れていった。
更に時は流れ、右肩にアザを持つ少女が、光り輝く剣と共に今旅立とうとしていた…。